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オッペンハイマーのsyoのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
5.0
この映画はロバート・オッペンハイマーを賛美するものでも、非難するものでも、哀れみ悲しむものでもない。反戦でも反核でも、またその逆でもない。これは「アメリカン・プロメテウス」、かつて神と称された男の"人間化"の映画である。
今作では尽くオッペンハイマーの天才ぶりが分かるようなシーンが削られている。そして様々な時系列が入り乱れる演出はまるでトリニティ実験の成功という栄光よりも彼の過ちを強調するかのようにも見えた。物語の半分は彼の人生をオックスフォード時代から懐古しているが、映されるのは負の側面ばかり。
功績からは似つかわしく無い狭い部屋で、ただひたすらに過去を掘り返される聴聞会。彼の脳内に繰り返される若き日の過ち、毒リンゴ事件に代表される精神的に不安定な内面、だらしのない女性関係、共産党との繋がり、、。
結局、彼は自身を神と錯覚してしまった、そしてただアメリカという国の駒の一つでしかなく、偶然に力を持ってしまった一介の科学者に過ぎなかった。

それ以上でもそれ以下でもなく、ただそれだけの映画と言って良いかもしれない。

前提としてこの映画は傑作です。今年No. 1、いやオールタイムベストに加えるべき作品。ここまで180分という時間を短く感じたことはなかった。
会話劇でここまで人を惹きつけるというのは、映像、脚本、音楽の全てが最高レベルでないと難しい。アカデミー総ナメも文句なしです。
ただこれを観てしまった以上、我々は学び考える必要がある。現在にまで続く、核と兵器開発競争、そして戦争。その脅威は何故無くならないのかを。彼の犯した過ちを2度と繰り返してはいけない。そう思わざるを得なかった。

ただ個人的にはオッペンハイマーとストローズの対立よりも、永遠のライバルとされたエドワード・テラーとの関係をもっと描いてほしかった。本当なら彼が原爆の父となる人物だったはずだから。
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