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オッペンハイマーのT0Tのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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2024.4.7 31-41

第二次世界大戦時の科学技術の最先端を舞台とした政治闘争のドラマ。

オッペンハイマーは、量子的な曖昧さでもって「イデオロギー」?の間の論理を「揺れる」。彼は、共産主義の思想にシンパシーを感じるも入党せず、ソ連のスパイを疑われるがアメリカ政府に忠誠を誓い、大量殺戮兵器の生みの親であるのだが政府からすればただのコマである。

 事実として彼は原爆を生み出し大量殺戮に加担した。オッペンハイマーは、量子力学という科学の探究から出発し第二次世界大戦という出来事に巻き込まれるなかで権力ゲームに巻き込まれる。故にこの権力ゲームに巻き込まれたオッペンハイマーは無実ではいられない。少なくとも世界を破壊する彼が自身を許すことは訪れない。
 まさに原爆開発のために作られたニューメキシコの街「ロスアラモス」は、政府側の人間にとっては権力ゲームの舞台であり、そこで統率者の地位にいるオッペンハイマーから「権力」を奪うことが最大の関心である。それはオッペンハイマーがそのゲームに興味があろうとなかろう関係ない。科学は政治に対して無関係でいられないのと同時に死者を生む戦争という出来事に対して無実ではいられない。
 この観点から言えば、ドイツから連れてきた尊敬する研究者から、この開発の恐ろしさを示唆される場面において、背後から事務員?が共産党員の女が自殺したことを告げにきたシーンは、印象的である。彼はイデオロギー的にも彼女への愛に対しても曖昧な態度をとったから、彼女は死に、大量殺戮兵器は開発され、実際に殺戮が行われた。原爆を開発を進めることはどのような大義があれ破壊を伴い、そして共産主義思想との矛盾であり、彼女を見捨てることである。彼の曖昧な態度は、決して「中立」ではなく、常にさまざまな人々を裏切り、生命に関わる政治的決定に加担する。
 その後の尋問は、まさにプロメテウスが受けた罰としての拷問である。そこでオッペンハイマーは、妻にも責められたように、この負け戦を闘うことにする。しかし、彼の闘いは、「共産主義VSレッドバーチ」ではない。「アメリカへの忠誠VSアメリカという祖国に向けた共産主義?」という中身があるのか無いのかよくわからない奇妙な闘いである。

原爆実験シーンは、緊張感がある。それは彼らが言うところの賭けとしてではなく、この原爆がもたらした甚大な被害を知っている者としての緊張である。恐ろしい兵器だな…。
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