ネズミ

オッペンハイマーのネズミのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.9
人類に核兵器をもたらした天才科学者の人生。

一発の核兵器で都市がなくなる。局地核戦争が起こるだけでも世界の農業機能が麻痺するだけに十分な煙が発生すると言われている(日経サイエンス2010年4月号)。
それだけの威力を持った兵器をアメリカが容易く市街地に2度も使用した史実は日本人なら誰でも知っているだろう。でも、その兵器の開発に深く関わったオッペンハイマーという天才科学者の内面を知っている人がどれだけいるだろうか?
核戦争勃発により人類滅亡の可能性があるとすれば、彼の発明によって人類の終わりが始まったと言えるかもしれない。だが、彼はただのマッドサイエンティストだったのだろうか?

■感想
オッペンハイマーの内面も、彼に関する史実も、バランスよく緻密に描いていた。
ストーリーによって何かの教訓を示唆するという類の映画ではなく、あくまでも一人の人物の人生を描くのに徹底していた。
広島・長崎の様子が一切映らないが、それもオッペンハイマーが自分のしたことから目をそらしている(そらしたい)ことを示唆しているように思えた。
「核兵器は絶対にダメ」という日本人なら当たり前に教わる教訓的なことは描かれてはいない。
でも描かれないからと言って「核兵器開発・使用を肯定している」訳では絶対にない。
日本人の観客の多くがトリニティ実験の成功を祝うアメリカ人達をグロテスクと感じただろう。
リアリティがあるから揺さぶられる感情がある。
伝記映画としての「リアルさ」が臨場感を醸し出すことに成功していた。
第二次世界大戦・冷戦開戦前夜・ファシストとの戦い・共産主義に対する厳しい風当たり・複数の女性との関係…様々な状況下で天才物理学者オッペンハイマーが見た景色を見た気がした。

この映画を見たことによって、量子力学に対する興味が湧いた。最初のリンゴと青酸カリのシーンは、シュレーディンガーの猫を表していたのだろうか?

バーベンハイマーが無ければ、もっと多くの人が観たのかな。本当にいい映画だったので皆にオススメしたい。
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