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オッペンハイマーのKIYOKOのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.8
賛否あるのは当然なので、その議論にすら参加できなかったもどかしがあった欧米公開からのこの数ヶ月、ヤキモキしていた。

俺の知らないところで勝手に盛り上がらないでくれと無駄にハードルがあがってしまった。
ようやく見れて便秘が解消されたような気分だ。

ノーラン映画としては少し物足りないが、伝記映画としてはよくできてる印象。

それと同時にアメリカ的な映画だった。この感想は別に皮肉ではない。

アメリカ人から見た原爆投下の認識というのが少なからずわかるという点と、もう一点、アメリカ人的には「赤狩り」の方がリアルな戦争体験だったのではないかということ。

正確な時間はわからんが映画の半分、もしくはそれ以上は公聴会にまつわるシーンで構成されていた印象。
アメリカにとって、共産主義者の内通者の方が脅威に思っていたのかもしれない。

ただ正直、これが少し退屈だった。
時系列やら人物関係が入り乱れているので理解するのに時間がかかってしまい、朝イチで見たのもあって眠気に襲わらた。

ノーランのフィルモグラフィー的には伝記もので会話劇という新しいジャンルへの挑戦であったが、これまでのようなキャッチーで迫力ある映像がすくないので、もうちょい短い方が相対的な満足度は高くなっただろう。

日本に対して差別的な描写があるかと言われれば無いと思う。ただ日本人的には不愉快に思う箇所はあると思うけど、表現上必要性を感じるのでそれがダメだとは思わないし、ないとダメだと思う。
この辺りのシーンで印象的だったのは「原爆を落としたほうがより多くの命を救える」というセリフ。
この考えは自分も小学校の頃聞いて衝撃だったし、とてもアメリカ的な視点。
ただ当時の大日本帝国の暴走っぷりを見ると一理あるとも思う。

広島・長崎への原爆投下の直接的描写はないが、トリニティ実験だけで核爆弾の恐ろしさは十分伝わるし、日本人ではなく映画ファンとして冷静に振り返ってみると、広島と長崎の投下するシーンがないの方が逆に恐ろしさが増長される演出的に効果があるとおもった。
オッペンハイマーがいる場所(=アメリカ)でどのように原爆が報じられて、受け止められたかというリアリティがある。

こっち側はあまり見たことがなかったので新鮮だった。

科学者としての自分の天才っぷりに恍惚感がありつつも、その後の生涯を通して水爆や原爆に反対の姿勢をとり続けたという矛盾に苦しむオッペンハイマー博士というのは、生々しい描写がなくても充分伝わってた。

見応えはあったので映画館で見る価値はあると思う。

ここからは余談。

・前評判でIMAXで見る必要性はないと聞いていたが、ノーランだし、ホイテマが撮影監督だし、、と結局IMAXで見てしまった。
が、やっぱり別にIMAXにこだわる必要はないと思う。
ただIMAXで見たからそう思えるのであって、自分はこの矛盾に悩まされる。

・上映フォーマット的な部分でこだわりたいなら音響・音圧が良い環境で見たほうがオススメ。

・山崎貴がこの映画のアンサーを作らねばとか言ってるけど、すでにアニメ『この世界の片隅に』が一つのアンサーとして出てる気がする。

・芸達者な役者が揃っていたので、芝居を見てるのが楽しかった。キリアンマーフィーしかり、ストローズ役のRDJの演技がすごい良かった。スコセッシ映画にも合いそうな悪役フィクサーっぷり。
アインマンファンとしてはもっとスクリーンで見たい。
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