シャカッチ

オッペンハイマーのシャカッチのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5
IMAXで鑑賞。
素晴らしかった。流石はノーラン監督。IMAXのポテンシャルを遺憾なく発揮した素晴らしい鑑賞体験を味あわせてくれた。

それにしても、やっと見れた…
本国では去年の夏に公開され、件の「バーベンハイマー」が日本国内で物議をかもし、公開はもはや絶望的かと思っていた…。ノーラン監督のファンとしては、時間はかかったが、こうして最新作が映画館で見られて大変よかった。

この作品は確かに難解な面もあるが、それは複数鑑賞の楽しみとできる範囲(まぁ、題材が題材なので「楽しみ」という表現は適切でない気もするが)だ。話はちゃんと一度で掴める。
恐らく、難解だという声があるのはオッペンハイマーの世界の捉え方(量子力学の世界)をビジュアル化した描写であったり、原爆開発後に巻き込まれる政治的なゴタゴタの複雑さ、そしてその時系列が前後するからだろう。
私としては、そこら辺は無理に理解しなくてもいいと思った。ただ、圧倒されればいいのだ。私としては冒頭、オッペンハイマーの世界の見え方をビジュアル化したと思われるシーンたちは、何と美しいのかと息を呑んだ。

トリニティ実験の描写もリアルだ。観測所は8キロ先と20キロ先。となれば、閃光が瞬く間に走り(現在の科学において、光より速いものはないからだ。光より速いものが存在する可能性は示されているが。)、遅れて衝撃波や音が押し寄せてくる。

印象深いシーンは、日本への原爆投下後、オッペンハイマーがロスアラモスのホールで人々を前にスピーチをするシーン。あのシーンは、困難なプロジェクトを完遂させたリーダーを喝采しているようでもあり、とんでもないことをしてくれたという怨嗟の声があがっているようでもあった。あのホールの人々の足音は、間違いなく興奮から来ているものであるはずだったが、何かを責め立てられているように感じているオッペンハイマーの内面がよく描写されていた。

あと、若きオッペンハイマーが毒リンゴを作るシーンは、もしや量子力学における有名なたとえ話「シュレディンガーの猫」の影響を受けているのだろうか? 毒リンゴを食べて誰かが亡くなる可能性と食べずに誰も死なない可能性の両方が存在しており、観測す(確かめ)るまでは不確定だということ。これは、些か深読みし過ぎかもしれないが…

原爆の被害について直接的な描写がないことが日本国内では様々な受け止めがあるが、それをしてしまうと、反核兵器へのメッセージ性が強く押し出されすぎる気がするし、オッペンハイマーの生涯へのフォーカスがぼやけてしまうと思う。
エンタメ性とメッセージ性、作品の主題に対する監督の絶妙なバランス感覚が光っていると私は捉えた。

様々な意味で、本当に見る価値のある作品だと思う。
シャカッチ

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