イロカワ

オッペンハイマーのイロカワのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.0
 原爆実験って本当に面白くない。別に未知への探究心が根底にあるわけでもなく、たくさんのプルトニウムを集めれば絶対に出来ると分かっているものを金をかけて作っただけ。その為に必要な人員も期間も場所もおおよその目安がついている。この研究自体に面白さを感じられない。
 科学者の狂気の源泉は未知への異常な探究心にあると思う。風立ちぬで「鳥のような飛行機」だけを目指して、人生も愛する人も心も全てなげうって青春にかけた主人公とはまるで違う。あの話が残酷で人を感動させるのは、未知への探求の先に地獄が待っていたからだ。最初から作れると分かっているものを金をかけて作った先に地獄が待っていても何の感情も動かん。そのことを指摘していたのはサフディ兄弟の片割れだけだった。ちなみに彼が演じたエドワード・テラーは誰も考えたことがないほどの威力を持つ水爆を開発した水爆の父。絶対この人が主人公の方が面白かった。エドワード・テラーが罪悪感を感じるかはわからないけど、この映画の中でただ一人、夢と狂気を持っていた。
 オッペンハイマーに魅力を感じないのはひとえに夢を持っていないから。彼には何もない。空っぽすぎる。宇宙の研究と原子爆弾の開発が結びつけば、まだ夢を感じられたのに…作劇が下手すぎる。オッペンハイマーをちゃんと演出してくれ。頼むから。
 日和見主義のノーランがやるには難しい題材だった。絶対イーストウッドか、マイケル・ベイがやるべきだった。イーストウッドが撮れば映画史に残る傑作になったし、マイケル・ベイがやれば本当に原爆を爆発させたに違いない。ドラマでも迫力でもノーランは力不足。
 ノーランが撮れない映画がまた増えたけど、いつかノーランにしか撮れない映画を見たい。テネットみたいな狂ったやつを持ってる。
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