イノベーションの光と闇を描いた作品
オッペンハイマーを若干美化している気もするが、イノベーションは人類の歴史に進化と同時に、新たな闇をもたらしてきたという普遍的な問題を描く。
日本での公開前には、広島や長崎の描写がないことが問題視されていたが、本作を観ればその理由は納得だった。悲惨な兵器だから悪いのではなく、イノベーションの本質を見極めず、それを手離しに喜ぶ大衆の狂気こそが、この映画の描きたかった闇なのだと思う。
核利用には核エネルギーの利用も含めて課題が多く、その本質は見えにくいが、例えば、わかりやすいのは自動車だろう。自動車は、人々の暮らしに便利さをもたらすとともに、各家庭に殺戮兵器をもたせることになってしまった。現在でも交通事故は絶えないし、戦車にその後なっていったことは説明するまでもないだろう。
おそらく核の問題のそうした側面を描くことは、制作サイドも意識していたテーマで、冒頭に、核をプロメテウスの火と結びつけたメッセージが流れる。火は人々に光をもたらしたが、殺戮の道具となったことはいうまでもない。。
長い作品でありながら、スピード感に溢れた描写、クリストファー・ノーラン監督らしいアニメーションを使った苦悩の表現、アメリカの各所の風景や女性の存在など、飽きさせず、見入ってしまうし、暗くなりすぎないので見ていられる。
そして、ラストには重く考えさせられる。
最後にアメリカの良心を描いたことで、少し希望があるのもよかった。
補足:本作では、アインシュタインがかなり悪者として描かれており、それにはこういう視点もあるのかと驚いた。