ヤッスン

オッペンハイマーのヤッスンのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

オッペンハイマーという世界を変えた男の半生へ引きずり込まれる作品。
住んでる地域柄基本は通常のシネコン鑑賞だが、2度目の鑑賞に遠征をして数年ぶりのIMAXを体感した。

思えば自分の映画人生の転換期にノーランがいた。
最初に中学生の頃劇場で観た『インセプション』では、半分も理解できていなかったがその世界に魅了され、再度観返すことでより解像度が上がり2度おいしかった。リピートという概念を知ったのはこの頃だろう。
『インターステラー』はオールタイムベスト5に入るし、コロナ禍を経て劇場鑑賞の大切さを知った『テネット』の存在も大きい。

それらで得た「映画の面白さ」がまた更新されたことになる。

カラーつきのシーンは基本的にオッペンハイマーの主観で出来事が描かれていき、モノクロパートでは別視点での物語。
オッペンハイマー自身による物語と「連鎖反応」的にその先へ進んだ先が同時に描かれていく。
これだけ多くの時間軸を行き来しながら、話題が大きく逸れることはなくむしろハイスピードで会話と物語が展開していく。振り落とされさえしなければそのテクニカルな見せ方に感激しながらその編集に惚れていく。

カラーパートにおいても、彼への質問を重ねるような客観的視点で描かれているように見えるものが、いつの間にかトリニティ実験をともに固唾をのんで見守るポジションへと観客を引きずり込む。

個人的に映画という媒体の魅力のひとつには見ず知らずの登場人物に自分を重ね、どこか別の世界を見ることができるというものがある。
ただ他人というものはどこまで行っても完全に理解することができないという要素もあり、このバランスが面白いところだと思っていたが、この作品はまさに自分にとってのそうした映画哲学そのものだった。

いち日本人としては決して良い印象のなかったオッペンハイマーという人物の半生に触れ、その歴史的にもいち個人としても抱いた罪の意識を目撃し、ある意味当事者的な部分まで呼び込む。
しかし同時に描かれるストロークの物語では、実に小さな個人的な感情をキッカケに歴史が動いていたことが終盤に判明する。

この主観と客観の行き来が起きる構成が一本の完成度の高い映画として成立しているのが、見事と言わざるを得ない。
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