LilyK

オッペンハイマーのLilyKのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0
アメリカのプロメテウス、オッペンハイマー氏をアイルランド人が演じ、イギリスの映画監督がメガホンをとった伝記映画。

正直なところ、この作品をどう受け止めるべきか、いまだに答えが出ていない、
唯一の被爆国に生まれたからこそ、この作品は鑑賞しなければいけない。その思いで劇場に足を運んだ。結果、自分がそれまで考えてきた原爆にまつわる様々なことを改めて考え直さないといけなくなった。
オッペンハイマーといえば、原爆だ。だから、原爆映画のような気持ちで観に行ったけれども、原爆投下の後も物語が続き少しビックリしてしまった時、いかに自分が原爆に囚われていたかを実感した。

作品としてのできは、とても良かったと思う。キャスティングに思うところはあるし、説明があまりないので観客に優しい作品であったとは決して言えないけれども、映画としての完成度は非常に高かった。

けれども、なんだか当事者意識が足りていない作品だとも思った。ノーラン監督はアメリカ国籍も有しているし、母親がアメリカ人だし、アメリカに住んでもいた。けれども、彼の経歴や過去作品を見ても、アメリカよりもイギリスの方が彼のルーツが近いのは明らかだ。キリアンの演技は素晴らしかったし、エミリーやフローレンスの演技も非常に印象的だったけれども、皆、アメリカ人ではない。トルーマン大統領すらも、イギリス人のゲイリー・オールドマンが演じる。
賞レースを睨んでか、なぜか賞レースシーズンが終わるまで日本公開を頑なに拒んだであろう、ユニバーサル。安易に「バーベンハイマー」をプロモーションに利用してノーランにおべっかを使いたかったのだろう、ワーナー。ハリウッド特有の人種事情だってちらつく。小さいことかもしれない。けれども、この小さなズレのようなものが私の中では違和感となり、どこかオッペンハイマーという人のことも、オッペンハイマーという映画のことも、正面から扱えていないように感じた。

ノーラン監督が反核なのも知っているし、彼のリアルへのこだわりも理解しているつもりだ。リアルな爆破映像で脅威を伝えたかったという思いも理解している。だけれども、私はどうしても、原爆のあの爆発映像を実写で再現しないで欲しかった。そこだけは、CGなどにして欲しかった。本物じゃないとしても、原爆みたいな爆発は実際に起きてほしくなかった、というのが正直な気持ちだ。
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