このレビューはネタバレを含みます
いろんなテーマがてんこ盛りの映画なので頭を使ってとても疲れる。科学者と政治家、核の抑止力、大衆と天才、女性の人生、友情、喪失、罪悪感、ユダヤ人であること、物理学への情熱、国への忠誠、誠実とはどんなことか。いろんなことを考えることができるけど、考える間もなく劇はどんどんすすんでいく。
映像と音的に一番印象に残ったのは、原爆後にスピーチをするオッペンハイマーのシーン。地鳴りのような振動音、歓声が悲鳴のように聞こえる演出、フラッシュは爆発のよう。あの場のオッペンハイマーと周囲との落差の表現はすごいなと思った。最後の「君のためではない、彼らのためにやってるんだ」というセリフも効いてるなと思う。「君に何がわかる？」とアインシュタインに問うセリフも。
オッペンハイマーが語らない分、音楽の使い方がかなり雄弁だなと思った。歓喜のシーンで流れる悲しくて不穏な音楽も印象的。
史実に基づいた部分も多いんだろうと思うけど、セリフほんと良かった。
「数学は音楽」「揺れていたい」「罪を犯しておいて同情しろと？」「いつでも電話に出るって言ったじゃない」「僕には妻と子供もいる」「そんなことを言ってるんじゃないの」「君など問題じゃない」「何を考えてるんだ？自分でもわかんなくなってんじゃない？」などなど、さまざまなセリフがそれぞれ強烈で、それぞれのテーマを提示しているし、おそらく劇中で響き合っているから、何度も味わうほどに面白いんだろう。何度も見る元気がないけれど。
モノクロ含めて映像的な魅力は、わたしにはそこまでわからなかったし、音響も過剰かなと思うところはあったけど、脚本と編集術が素晴らしいと思った。
