デパルマ

オッペンハイマーのデパルマのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.5
まごうことなき反核映画だった。難解難解と聞いていたけど、評伝読んで年表作ったせいか全然観やすかった。人生初のIMAXレーザーだったけど案の定爆発シーン以外にアクションのない会話劇が主だからDUNEの方を観れば良かった感。「風立ちぬ」みたいな主人公突き放し系孤高の天才映画と思いきや、カメラがオッペンハイマーに終始接近してて愚かな人間として半ば力づくで共感させてくるような映画だった。キリアン・マーフィーとベニー・サフディの演技は素晴らしかったし、ロバート・ダウニー・Jr.ってアカデミー賞受賞式でも思ったけどあんなに表情やシワから性格の悪さが滲み出てたっけ。ダウニー・Jr.扮するストローズの下りは(作中ラストで言及されるけど)オッペンハイマー自身や原爆を所有してしまった世界自体に何の関係もないからあの半分の尺で良かった。ただセキュリティクリアランス、特定秘密保護法的な、(自民党や公安を含めた)反共的な問題は日本においてこれからより大変な問題になってくるだろう(それこそ大河原加工機の冤罪みたいなことがまた起こり得る)けど、映画にとってはあそこまでの尺いらないよね。当時はまだ原爆の放射能が人体に多大な影響を与えることが分かっていなかった訳だけど、その点があのスライドショーを観るシーン以外ほとんど描かれないのもダメだと思う(今となっては当たり前だからいらない気もするが)。個人的には、アメリカ政府が日本に戦略核を落とすことで生じる日本人への被害と倫理的問題が語られるシーンが一番興味深かった。もし当初の計算通り3万人の被害だったら…と考えたところで時間は逆行しない。冒頭の部屋の隅にグラスを放り投げて割るのってガラスがどのように割れるか研究する物理学者仕草とでも言うかね。全てののことには原因と結果があり、起こるべくして起こるとでも言うのかね。演技、撮影、音響がエグすぎる分、展開の乏しさや通奏低音のように鳴り響く音楽がかなりだるかった。「プレステージ」の男の嫉妬、「テネット」の化学兵器で世界滅亡、「インターステラー」のブラックホール理論、「インソムニア」や「ダークナイト」の目的が正しければ手段は問われないが罪は一生付いて回るというテーマやら、過去のノーラン映画のディテールがたくさん。それにしてもノーラン映画っていつも彼女死ぬけど元カノ亡くなってるの?ゴジラとオッペンハイマーのヒットに際して「ひろしま」がアメリカでリバイバル上映されるかNetflixで配信されると世界は少し良い方向に向かうと思う。原爆の実相描かれてない問題はオッペンハイマーの主観映画だからとはいえオッペンハイマーの目が捉えてない登場人物の行動を描かれているんだし、無知なアメリカ人のために被害の発表をするスライドショーをチラッと映すくらいのことはしても良かったとは思う。広島に訪れたオバマとバイデンが愚かにも原爆資料館に足を踏み入れなかったようにオッペンハイマーも惨状に見せ伏せる。だったら映画が見せろよ!と思う。見せないゆえにノーランはオッペンハイマーに共感しただけで原爆投下のことはどうでもいいと思っているのではないか?という批判も真っ当に思える。私は去年念願の原爆資料館を見るために一人で広島行ってきた。そこで親が子に宛てた手紙の展示スペースで立っていられないくらい落涙した。オッペンハイマーと同じ愛国者として、日本政府が核の拡大抑止を肯定して核の傘の中で生きようと世界に向けてリーダーシップを発揮していらっしゃることに軽蔑するよ。TENETにパラドックスが描かれているように時間は逆行できないのだから、いくら懺悔したって遅いのだし。
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