ゼロ

オッペンハイマーのゼロのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.8
この男が、世界を変えてしまった。

突き抜けた作家性とメガヒットを両立させる鬼才・クリストファー・ノーラン監督の作品。今回のテーマは、世界初の原子爆弾を開発した「原爆の父」として知られる理論物理学者ロバート・オッペンハイマーの生涯を描いた伝記。

初めに言っておくと、傑作な作品でした。日本の広島・長崎に原爆は投下されましたが、本作品では原爆を推奨するようなことも、皮肉やブラックシュールもなく、真摯に向き合っていました。

過去の氏の作品で「ダークナイト」がありましたが、その時も「正義とは何か?悪とは何か?」というのを大きく扱っていました。今回もヒーローものではなく、伝記ではありますが、根底にあるものは一緒でした。

テーマは「原子爆弾を開発してしまったオッペンハイマーの苦悩と懺悔」です。

正直、オッペンハイマーの生涯や当時の戦況などは詳しくありません。本作品は180分と長い作品であり、多くの人物が登場するものの、丁寧な説明などありません。氏の作品らしい時系列シャッフルな演出もあり、一度の鑑賞では全てを理解することはできません。ただメインで必要なのは、J・ロバート・オッペンハイマーとルイス・ストローズの対立を理解すればそれで良い。

会話劇の作品ではあるのですが、漫才であるかのように怒涛の会話劇を繰り広げ、演者の熱量がある演技を見続けるのは、気持ちが良いものでした。劇場作品らしい音楽もあり、常に緊張感があるものになっていました。

オッペンハイマーは、劇中を見ている限りだと曲者で、利己的という印象が強い。原子爆弾を開発するというのも、自分のためにというのが強かった。またごちゃごちゃした人たちを、よくもまあ纏めていたなあという印象。

彼の欲望に突き進み、アメリカのために原子爆弾を開発したときに、彼は己の正義に疑問を感じた。国の言われるままに、英雄とまで口々にされていたが、果たして開発したことは正義だったのか?

劇中でもわかりやすいくらいに葛藤を始めていた。この辺の演出は上手く、演説を聞きに行ってる人が、被爆しているシーンを描いた。褒められに行ったはずのに、変なことを口にしてしまった。

果たして、世界を変えてしまって良かったのだろうか?

そして、冒頭から展開されたソ連のスパイ疑惑を受けたオッペンハイマーの聴聞会が、終盤にはあっと驚くような展開となり、スリリングなものとなっていました。

久々に見応えのある作品を鑑賞したな…と思いました。近年のクリストファー・ノーラン氏の作品と比べると、SF要素や時系列シャッフルなどの作家性は、史実なので弱くなっており観やすかった。が、扱っているものが扱っているものなので、なかなかヘヴィ。

是非、劇場公開している間に観てほしい作品でした。
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