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オッペンハイマーのフラットラインのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.4
予習必須の作品。せめてオッペンハイマーが赤狩りに遭っていたことは知っていないといきなり置いていかれる。補助線的ですんなり読めるオススメの本は、デビット・ハルバースタムの「ザ・フィフティーズ 1950年代アメリカの光と影」の1巻。僕はこの本のおかげで概要を掴め、物語を楽しむ余力を残しつつ映画を観ることができた。
クリストファー・ノーランの語り口はとてもドライで、ドラマ性が低いんじゃないかと思ってしまう。でも、そのドライさが実は伝記物との相性が良いこともわかった。変にオッペンハイマーを美化しすぎず、観客に判断をさせる余地があった。彼が原爆投下から原爆・水爆の開発反対の立場になったのは有名な話だが、そうなった経緯も敢えてウェットにしなかったんだろう、感情を抑えた表現がとても良かった。

科学者たちはドイツやソ連より早く原爆を作る必要があり、それを達成できた高揚感もとてもよくわかる。実験で成功した炎の美しさはその象徴だ。だから完成品の原爆を科学者から軍の手に渡り、2台のトラックで運ばれていく姿は本当に禍々しく感じた。これは僕が日本人だからというわけではないと思う。
人間が自分の手に余る炎を手にしてしまい、国がそれを何の躊躇いもなく使ったことが歴史で残っている。この映画では実際に原爆を投下するシーンはないので物足りなく感じる人もいると思うが、そのシーンを敢えて描かないことで、科学者たちが原爆で夥しい人が死んだことへの責任すら取らせてもらえないもどかしさを表現してるんじゃないかな、と思っている。

ハリウッド映画における核爆弾の扱いの軽さにイライラする。でも今作は余計なウェット感を廃した分、そのイライラに悩ませられることがなかった。

我は死なり。世界の破壊者なり。
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