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オッペンハイマーのTPのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.6
 原爆の悲惨さが十分描かれていないという批評もあるようだが、本作はそれは主眼ではなく、天才的物理学者で原爆生みの親と言われるオッペンハイマーの赤裸々な人間像を描きたかったのだと思われる。
 時にエゴイスト的でもあり、強力な爆弾を作ってしまったことを後悔したり、また、政治的策略でソ連のスパイ容疑をかけられる中で、彼の内面は大きく揺れ動く。
 そんな人間像が、緻密な音楽や映像も駆使して幾何学的に形成されていくところにノーラン監督の力量を見た思いで、冷徹と言ってもいいほど、客観的にオッペンハイマーという人物像を形成していく。
 だからこそエモーショナルな感動というものはほとんど感じられないのだが、現代でさえ脅威である原子爆弾を中心的に開発してしまった一人の人物が巨大な偶像として観客に差し出される。

 主役を演じたキリアン・マーフィーがまず素晴らしい。複雑な人間像を完璧に演じている。また、有名俳優たちがそれぞれ与えられた役の中でしっかり存在感を示し、輝いている。
 彼らの熱演もあって、本作は伝記物として間違なく秀逸な作品である。

 深掘りはされないが、結構数式とか化学反応をイメージしたような映像が挿入されるので、理系の人の方が楽しめる作品だと思う。
 私は化学系出身で原子単位のメカニズムとか原爆の原理などはわかっているので、原爆製作の過程はとても緊迫感と興味をもって観た。

 しかし、全く予備知識を入れなかったので、オッペンハイマーは公聴会でどういう罰を受けるために責められているのか、終盤、敵役となる米原子力委員会のストローズ委員長は何を目指してオッペンハイマーを退陣させようとしているのか、靴売りがなんちゃらとかいうセリフが出てくるのかなど、よくわからない場面が多かった。
 また、登場人物が多岐にわたるので、少し予習した方が解りやすいと思う。
 映画自体が素晴らしいので、勉強した今は3時間を超える長尺だが、再度観たいという欲求にかられる。

 なお、ノーランお得意の時間軸をいじった展開が多いのだが、カラーと白黒の使い分けや、時代による年齢表現をかなり繊細にメイクアップで分けているので、展開的にごっちゃになることは少ない。
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