ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)は、カリフォルニア大学で教鞭(きょうべん)をとる世界最高の理論物理学者のひとり。第2次世界大戦のなか、陸軍のグローヴス准将(マット・デイモン)から、ナチスドイツに対抗する原爆製造のための「マンハッタン計画」に誘いを受ける。
オッペンハイマーはその計画のリーダーとなり、ニューメキシコ州ロスアラモスの砂漠のただなかに巨大な研究所をつくり、そこに優秀な科学者とその家族数千人を移住させる。
ドイツの敗北後も、日本を降伏させるために原爆開発は続けられ、ついに人類史上初の核実験「トリニティ」を成功させる。トルーマン大統領はその原爆を広島と長崎に投下する。
第2次大戦終結後、オッペンハイマーは「原爆の父」と賞讃されるが、原爆のもたらした惨禍に苦悩する。しかし、アメリカ政府は冷戦のなかでさらに水爆を開発しようとし、それに反対するオッペンハイマーを敵視して……。
お得意のIMAXの画面も深化し、核融合の実験的なイメージと、原爆爆発のスペクタクルと、登場人物のクローズアップを無理なくつなげて、作品の統一感をまったく失わない。
物語的な主題として、人類最高の叡智(えいち)(量子物理学)が人類最悪の愚行(原爆、水爆)に通じてしまう悲劇を主人公に体現させ、そのいまだ解決の見いだせない問題を、いまも戦争で苦しむ人類に突きつけるという姿勢に共感する。
トランプ再選という可能性が浮上するなか、戦後のオッペンハイマーへの迫害(赤狩り)は過去の出来事とはいえないだろう。
アクションなどを排した正統的な伝記映画は、ノーラン監督を巨匠の域まで押し上けた、