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オッペンハイマーのsayuriasamaのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0
ダークな世界観、時間軸の組み換え、正義とエゴの2面性、物理学的理論…ノーラン監督の集大成いいとこ取りの作品だとしても、心から楽しめない辛さを内包した作品

ノーラン監督作品は大体映画館で見ている自分ですら、題材的に日本では早期公開は望めないと思っていた中、2023/12/7の朝方に届いた一報。2024年内の公開というニュースが出てから、3月に公開という割とスピーディーかつ、アカデミー賞受賞の箔が付いた状態での公開となったものの、内容が重くてすぐには観れず…ちょっと遅れての鑑賞。(自分的メモ:12/7、個人的に映画とは全く関係ない分野のニュースで頭がいっぱいになってそこから一週間はそればかり考えてました)

まず、何もかもを芸術として、まっさらなノーラン監督ファンとしてみたときは、「今までのノーラン監督作品の詰め合わせ」のごとく、彼が好んで描いてきたテーマが隙間なく詰められていて、流石だなぁ〜と思いました。時間軸のいじり方は、まさしく編集の効く映画ならではのつなぎ方で、見ている方がついていくのが大変なのですが、理屈がわかればそれほどユニークかつ映画らしいアプローチもないだろうと思いました。
あることを回想しつつ、前後の時制に引っ張る手法は個人的に好みです。(自分が脚本を書くなら参考にしたい)

キャスト陣も、キリアン・マーフィーはじめ、皆個人的に好きな俳優ばかりで飽きることはありませんでした。特に、オッペンハイマーの友人役のデイヴィッド・クラムホルツは「ナンバーズ」という連ドラで数学を駆使して、FBI捜査官の兄と力を合わせて事件を解決する数学者の弟役を演じていて印象深い俳優さん。
なかなか味のあるキャスティングでしたね。あとはアインシュタイン役のトム・コンティも印象的でした。

ですが……
やっぱり1人の日本人としては、原爆の開発という事象はあまりエンタテインメントとしては受け入れることができないことは確かであり、楽しく何回も見返すことのできない作品であることが惜しいです。もちろん、オッペンハイマーの原子力学としての偉業についてや、そんな重大なことですら、どうでもいい政争の道具として面白おかしく扱われてしまう浅はかさをうまく描けてはいるので、とても冷静で公平な映画だとは思いますが、この出来栄えとキャスト陣なのに何度も見たいと思えないヘビーさが惜しいです。
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