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オッペンハイマーのtakaeのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0
世界の在り方を変えた、一人の天才科学者の栄光と没落。

この物語を私はどんな風に見て何を感じるのか。一番の興味関心はそこにありました。

天才ノーランのカラーとモノクロを多用した手法や構成、撮影方法...その辺りは私にはあまり関係なかった。というか、そこをじっくり見ている余裕はありませんでした。

こういう作品を観た時に抱く感情は、観る人の立場やこれまでの経験によって異なる。アメリカ人と日本人とでは勿論のこと、同じ日本人であっても違うものだと思います。だから、どれが正しくてどれが間違いとか、そういう議論は不要だと思う。たくさんの感想を読んで私はそう思いました。

どちらかというとすぐ感情移入して大泣きする私ですが、時々怖いくらい冷静に客観的に物事を眺めるところがあり、今回はその客観性が前に出たような気が。

天才と常人では世界の見え方が違う。

私たちが何気なく見ている日常の風景も、宇宙の方式に当てはめて考える。すべてが原子の集まりとして目に映る。

科学者というのはとにかく、世の中の誰も知らない物理法則を解き明かしたい、解き明かすことで世界が変わるような発見をしたいと常に考えるものなんだろう。例えそれが原爆を作るという目的だったしても、きっとそれは変わらない。

そして、完成してしまったらもうそれを使わないという選択肢はあってないに等しい。これまでとは桁違いの威力を持つものだと分かっていても、学者としての知的好奇心や探究心が勝ってしまう。誤解を恐れず書くと、そこは理解できるような気がしました。

人間とはそういうもの。威力を試さずにはいられない。使わずにはいられない。

だけど、やはりトリニティ実験のシーンでは涙が溢れてきた。恐怖と悲しみと、この実験の成功により世界が変わってしまうこと、たくさんの人命が失われることが決定付けられた瞬間を笑顔で喜ぶ彼らを見て、涙が止まらなかった。

そして、そこから始まるオッペンハイマーの苦悩。
自らが作ったもの、それが持たらした事実と対峙し、残りの人生の全ての時間でそれを背負っていかなければならないというのはどれ程のことなんだろう。

自業自得だと言われればそれまでかもしれない。だけど、人間の想像力には限界がある。きっとこうなるだろうと予想はできても、実際に目にしなければ分からない事の方が多いんじゃないかと思います。

だからこそ、想像力の限界を補い、これまでの失敗を繰り返さないために原爆での被害や戦争で失われた命を忘れてはならないと、そんな風にも思いました。

だけど、オッペンハイマーがトルーマン大統領と面会し、“自分の手を血に染めてしまった” と語ったシーンで、トルーマンが 「原爆を作った人間を誰が責める?責められるのは使うことを決めた人間だ」と得意気にも見える表情で語ったのを見て、ああ、これじゃあ戦争なんてなくならない...と絶望にも似た気持ちにも。

戦争を続けようとするのは、戦場に出たこともなければ銃弾に向かって走り爆撃を恐れて身を隠したこともない、戦争に勝っても負けても決して死ぬことのない安全な場所にいる人達だという事実。

鑑賞するにあたり、必要最低限の知識は入れて臨みましたが、正直それでも理解できず途中少し気が遠くなった。
だけど、それでもいいのではないかと私は思います。天才物理学者ではあるものの、私たちと同じ人間であるオッペンハイマーの苦悩。彼への妬みを原動力に彼を貶めようとした男達の愚かさ。
人間の欲望や好奇心、虚栄心。優越感や罪悪感、絶望や悲しみ、そして倫理観。人間は不完全だからこそ、繰り返し議論し人間が生み出したものに対して責任を負っていかなければならない。

世界中の人々がこの映画を目にして、今まで知らなかったことを知り、過ちを繰り返さないためにそれぞれが考え続けること。それだけで価値があるのではないかと思います。

何という支離滅裂な感想...
この映画をきっかけに、知らなかったことをもっと知りたいと思えた。映画というのは本当に、私にとって人生を学ぶためのものに他ならない。理解できないということを恐れず、たくさんの人に観て欲しいです。
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