カラン

オッペンハイマーのカランのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.5
物理学者オッペンハイマーが広島、長崎に投下される原子爆弾の開発から、戦後のアメリカ国内の共産主義者を排除しようとする赤狩りの過程で、政治的な思惑に翻弄される姿を描く。

☆もさっとした多動のアンチヒーロー

第二次世界大戦のアメリカの犠牲を抑えながら効率的に戦争を終結させる兵器であり、戦後の安全保障戦略における核の傘として抑止効果を発揮する核の是非ではなく、女好きでふらふらする物理の秀才であるオッペンハイマーと、自らの政治生命を賭けて卑劣な罠をしかける成り上がりのストローズのセリフの応酬になる。退屈極まりない。原爆開発のプロセスを具体的に細かく描くべきだ。あるいは、核という現代の倫理の基礎に真っ正面から取り組むべきだ。どちらもやらずに、小物の政治家の姑息な活動に右往左往するオッペンハイマーの半生を描くのだが、カットのし過ぎでエモーションが寸断されまくる3時間にはひたすら苛々した。のらくらしているのに、エモーションが5秒も持続しないって、ありえないな。

フローレンス・ピューが演じるメンヘラ女を殺したのはオッペンハイマーだよね。ふら〜っと女を裏切り続ける人でなしのアンチヒーローとしてオッペンハイマーを描いている。そうすると、核兵器が拡散しまくった現代の国際情勢に私たちが至ったのは、女を裏切り続けて、原爆を作るやいなや反核に立場を変え、共産主義者であり、かつ、反共論者であるかのような、一貫性の乏しい、凡庸なる秀才の物理学者が、また、そういう情けないがごく普通の人間を礼讃したり、でっち上げの因縁をつけたりしかできない、彼以上に脆弱な私たちが、招いた惨状なのだ、とノーランは言いたいのかもね。それは結構な話だが、長くて話してばっかりで良いショットがないのは、いかがなものか。


☆坂本龍一プロデュース

65mmIMAXフィルムカメラを使うノーランなので、当初は、IMAXで観ようかなと思っていた。しかし、客足が緩くなったら行こうとのんびり構えていたのだが、アスペクト比を破壊するつぎはぎショットのくせに追加料金を取るGTで鑑賞するのは回避したかった。で、4500円のチケットで109シネマズプレミアムに行くことに。坂本龍一が音響システムの監修を行った映画館で、さらに、35mmのフィルム上映を鑑賞できるというので、ちょっと色々と期待してFilmarksの人と行ってみた。

最上の席を予約できた。低音でスキニーのジーンズの裾がふるふるし、尻の肉がシートと共振するくらいにはエネルギーがある。さらに音圧を上げたら、破綻してしまうのかもしれないが、もう少しあげて欲しい。ただ、映画館としては上等な部類のサウンドだった。

35mmフィルム上映だが、IMAXのツインプロジェクターの方がいいかな。もうちょっと小規模な上映にしないと、スクリーンの威力が薄まってしまう。
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