映画男

オッペンハイマーの映画男のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.0
偏見があるのは承知で皮肉混ぜて言わせてもらうならそもそもノーランという監督は一貫して演出がダメというか出来ない人でセリフに深みを持たせるとか動きながらの芝居させるとかはほとんど感心させられない。たとえば本作でも「インセプション」でも「テネット」でも、道や廊下を二人で歩きながら喋らせる場面がしばしばあり、これはまず凡庸でありしかもなかには重要機密情報なんかも喋らせていたりするので常識的におかしい。こういうのを平気でしちゃう監督なのである。そんなノーランは自分の長所短所を理解して、特殊撮影や視覚効果、IMAXによる映像の厚み、音の厚みで演出の弱さを補っているようにおもえる。あるいはそれら映像と音の効果を活かすために演出をシンプルにしているのかもしれないがそれは色んな人に聞いて考察するしかない事案だから誰か評論家に調査してほしいところである。そんなわけでおれはノーランの映画を観るときは技術的な点に特に注目するようにしている。やはり一作品ごとに進化する技術は純粋に興味深いし毎回驚かされる。本作ではオッペンハイマーの思考に潜り込むような数式や天体のイメージ、原爆実験のスペクタクル、シーンとシーンを繋ぐ音(これは音が大きすぎて苦手な人も多かったとおもう)に感動した。普通に、すげえなと。ストーリーテリングに関しても過去と現在をじゃんじゃんミックスしながらも気にならず見せる手腕もすごいとおもった。

結局、演出についても本作では(偉そうに言うが)進歩してるし、そんなに悪くなかったんじゃないだろうか。今回はリハーサルから役者に衣装メイクさせて気持ちを入れさせていたというから、こういう準備も素晴らしい。そもそもアメリカで大々的にオッペンハイマーを描いた映画がないことに危機感を持ち、しっかりと調査して骨太に作り上げたことは偉いとおもう。大島渚と重ね合わせたくなるたくましさを感じる。何かと時代を先取りするというか、常に一歩前を歩くノーランは映画監督として尊敬に値すると再認識した。そういうわけで「オッペンハイマー」はそこまで不満の残る映画ではなかったのだが、なんちゅうか、単純におもんなかった。
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