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オッペンハイマーのmidoriのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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原爆を落とすことにははっきり反対しなかったのに、水爆推進には反対するのかという聴聞での質問はもっともだと思う。でも一方で、科学者として関わったまでで最終的には自分の手を離れ落とされたという趣旨の主張も、前半からプロジェクトがどんどん大きくなる様子をオッペンハイマー視点で観ていた分、正直同情してしまう。

時折挟まる幻聴幻覚から、彼のex妻や原爆投下に関連した後悔や反省の気持ちは偽りないものだろうと思いつつ、でもはっきりとは罪を認めない部分はあって...
弁護士に勝ち目ないと言われても聴聞会に出席することで罪の意識を償ったつもりでいそうなのが、やっぱ欺瞞にも感じる。
大統領に、批判の矛先は発明者の君ではなくこの私だ、的なこと言われた後の彼の安堵感は許せないけど、でもその後英雄気取りにならないだけずっっとマシ。

「敵国」であれ、戦争を終わらせるためであれ、罪のない文民の命を殺すことのリアリティを、なんとしてでも失うべきではないと思った。まあ現実問題、あんな大金と労力をさいたプロジェクトを止めるなんて無理なんだろうけど。

シンプルなことだけど、爆弾を「装置」と言い換えて開発を進めることは、殺戮から目を背ける意識だし、犠牲者の話に少し触れたと思ったら、これは戦争終わらせるためで最終的な犠牲者は減る云々、他の選択肢を上げず規模のでかい話をしようとするあたりを改めるだけでも違うんじゃないかなぁ...などと

あの開発競争に乗っておいて、日本が降伏すれば終戦で全てがリセットされるかのように動くのがなるほどこんな感じだったんだと思った。一つの切れ目は複数あっても、もちろん時間は繋がっていくし、あの原爆は無かったことにならない。冷戦で幾度も触発状態になったことも当然地続きで、今を生きる私たちの世界であっても今後もそのリスクは存続する。そういう意味でやはり彼は世界を破壊したし、プロメテウスなんだろうな。
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