上原正祐

オッペンハイマーの上原正祐のネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

『ダークナイト ライジング』で、海上で爆破させたら、被爆は免れないだろうとツッコミされてから、早10年以上経って『オッペンハイマー』で、ノーランがメインテーマに原子力爆弾を持ってくるとは思わなかった。
とはいえ、世評ほど個人的に評価は高くない。ノーラン作品として見たときの印象は、『ダンケルク』的な時間のモンタージュで、ストーリー的には『インセプション』に近いと感じた。
まず、時間の時間のモンタージュは、『ダンケルク』『テネット』ほどうまく行っていないと思う。
第一幕が大学時代から教授時代、第二幕がマンハッタン計画、第3幕が間に入っていた聴聞会、公聴会と続く。
 普通の映画なら、汚名返上をしたところを中心に三幕を終えるだろうし、ある程度批判の的になっているように、オッペンハイマーの来日は描かれていたと思う。
 しかしノーランは、それを描かず、アインシュタインとの会話、大気引火のビジョン、水面が雨によって波紋を描くシーンを、冒頭と結びつけ、円環によって物語を閉じる。
 恐らく時間のモンタージュの効果として、最初から、オッペンハイマーの疑惑を描くことで、原子力爆弾の開発に向かっていくオッペンハイマーの興奮、ハリウッド的なカタルシスに観客が追随するのではなく、抑制するような作りになっていると思う。
 オッペンハイマーの名誉を回復したが、いまだ核の恐怖は解決(今現在の世界においても)せず、宙吊りになったままである。円環というのは、ノーランの一貫した作家的テーマではあるのだが、ある種、オッペンハイマーの未来を示唆することで、言い訳のような作りにもなっているといえる。
 『オッペンハイマー』に日本視点による被害をあまりに描いていないという批判をよく見かけるが、映画史における「表象不可能性」の問題を踏まえた意見は少ない、気になる人は、レネの『ヒロシマモナムール』を見てほしい。もし悲惨な描写をしても、簡単に分かった気になるだけになりうる。本作のオッペンハイマーの当事者としての罪悪感の表現はかなり甘いと思う。当事者国の国民として思うことはあれど、当事者意識のない世代の私にとっては、そういう批判を当事者面して批判するのが流行っているようにも感じる。
 ストーリー面で『インセプション』に似ているというのは、コブのように女性のトラウマを抱えている点で、アインシュタインは、オッペンハイマーの父親的な存在に演出される。
斎藤環によれば、『ダークナイト』は、ハリウッド心理主義を終わらせた作品だったが、今作は思いっきり心理主義的になっている。天才ゆえに、左翼主義かつ、女好きという人物を描くのに、一人称の主観的な部分を強調して書かれているが、同時にわからない人物として、突き放す三人称が奇妙に行き来している。同居している。時間のモンタージュもあり、上手くいっていない。
 それゆえに、オッペンハイマーが、愛した女性を失ったがゆえに、自身のトラウマの解決のために、日本への投下に向かったように見える。なんだが碇シンジ的なマインドの人物で収めてよかったのか。
上原正祐

上原正祐