NagiTamada

オッペンハイマーのNagiTamadaのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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偉大な物理学者。或いは原爆の父として語られるばかりだったロバートオッペンハイマー博士を、人間的に描いた作品です。
そこに見える欠落と、膨張した知性。
結果として彼は永久的に世界の形を変えてしまった。正しく“破壊してしまった”のです。
溢れてしまった水は二度と盆に帰ることはありません。科学の進歩を妨げることなど出来ないし、するべきでもない。
だが、水はまた新しく注げば良い。
僕らに出来ることは、科学を扱う人間の心が、未熟なままにならないように努力を続けることです。

この作品は素晴らしい歴史映画です。
科学者という、“前線にいない兵士達”が抱える苦悩を前面に押し出した異色の作品であり、戦争というものが人々に与える負の影響を、映画としては未開の側面から描きだしまた。
このようにドキュメントとしての色が強い本作を、単なる娯楽として消化することは決してしないで欲しい。
また、賛否両論を生んだ原爆被害の映像を敢えて映さない演出ですが、偉大な芸術は必ずその最も重要な部分を鑑賞者の心に託すという法則や技法を理解してほしい。
言い換えれば、本当に大切なものはいつもスクリーンの余白にあるということ。それが実感出来るかに関わらず、真の芸術はそのような構造になっています。
それ故に皆さんには、この演出を非難する前にもう一度、凄惨な原爆投下現場に対して想像力を働かせて頂きたいのです。

クリストファーノーラン監督と、偉大な俳優陣に感謝します。
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