ゆかちん

オッペンハイマーのゆかちんのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.2
「オッペンハイマーの人生を辿る物語」なのだけど、そこはさすがノーラン。
話の持って行き方や見せ方がしっかりノーラン印。
スケール大きな話と、誰にでもあるような人間同士のいざこざみたいな話が同列で出てるのも面白い。
そして、観客に頭と感性使わせるわ〜ってなった。

あと、思っていたより第二次世界大戦での「核爆弾を作ったことの罪深さ」を提示しているように見えた。

ただ、「日本に原爆を落としたことの罪」というよりも、「核爆弾を生み出したことの人類への罪」というのにフォーカスされているという感じかな。





第ニ次世界大戦中、才能にあふれた物理学者のオッペンハイマー(キリアン・マーフィー)は、核開発を急ぐ米政府のマンハッタン計画において、原爆開発プロジェクトの委員長に任命される。
しかし、実験で原爆の威力を目の当たりにし、さらにはそれが実戦で投下され、恐るべき大量破壊兵器を生み出したことに衝撃を受けたオッペンハイマーは、戦後、さらなる威力をもった水素爆弾の開発に反対するようになるが……。



伝記映画といえば伝記映画やけど、ただ「時系列にこんなことがありました」みたいに見せるのではなく、工夫されていた。
まずは、時系列は切り貼りしてる。
で、切り貼りすることにより、よりテーマが浮きだすと言うか、「ここのシーンの意味は重いな〜〜」ていう効果を生み出していた。

そして、更に工夫されているのは、二つの視点から話を進めているところ。

1人はオッペンハイマー(カラー映像)。
もう1人は、オッペンハイマーと対立していくロバート・ダウニー・Jrが演じるストローズ(モノクロ映像)。
2人の視点が絶え間なくスイッチされ、異なる時代で開かれた2つの“裁判”を往還し、紡がれていく。

オッペンハイマー視点のカラー部分をFISSION(核分裂)、ストローズ視点のモノクロ部分をFUSION(核融合)とタイトルをつけているのがなんともシャレオツ。



世界を変えるほどの科学的発見。
一方で、世界を破壊してしまうかもしれない道徳的責任と核兵器による根源的な恐怖。
こういう矛盾を抱えたオッペンハイマーの苦悩や葛藤がキリアン・マーフィーの表情で表されている。
観てるこっちも苦しいってなるほど。


で、こういうオッペンハイマーの視点がメインではあるんやけど、この映画はストローズの一方的な恨み…
…出世欲強すぎ捻くれすぎのストローズは、
1947年にオッペンハイマーがアインシュタインに自分を無視するように伝えたんだと思い込んでいて、
更に、1948年にアイソトープ輸出時の公聴会でオッペンハイマーに馬鹿にされたことをずっと根に持っている…
…にもフォーカスをあて、そこがオチの一つになるようにもしてる。

もちろん、このストローズが仕組んだ1954年アメリカで国家反逆の疑いを掛けられたオッペンハイマーの聴聞会のシーンが重要なのだから当たり前といえばそうなんやけど。
でも、こういうのが1人の人間の思い込みの逆恨みによって引き起こされたというのがなんとも人間くさい。


原爆を作る過程。
起きた事実を知る者…特に日本人…からしたら悪魔の所業!って感じはするんやけど、純粋に科学的にみたら新しい発見とも言え、ワクワクする要素すらある。

また、ナチスドイツに先を越されないためという大義名分もある。
悪者に悪を持たせるわけにはいかない!みたいな。

原爆実験のシーンは凄かった。
光と音の差があるのとか含めて、大画面で見て迫力を感じた。

成功したー!なのも、恐ろしい気持ちはあるけれど、勝利を掴む気持ちになって高揚している人がいるのもなるほどなとも。


でも、その後、日本に原爆を落とされた後の描写。

公聴会やたかな。日本に原爆を落とす必要…特に二つも落とす必要はなかったのではというのも言及してた(はず)のは、アメリカ映画としては興味深い。


あと、「日本に原爆を落としたことで戦争を終わらせ、多くのアメリカ人の命を救った!英雄だー!」みたいなところが、「異様な光景」として描かれていた。

日本の惨状の映像(その映像は鑑賞者には見えなかったけど)から目を逸らすオッペンハイマー。
幻覚や幻聴に苦しみだすオッペンハイマー。
オッペンハイマーが見た幻で被曝して顔が崩れていく少女は、ノーランの娘が演じたと言う。


この辺にノーランなりの核兵器についての問題提起、罪や悪を表したかったのかなというのを感じた。


あと…

本作は善・悪どちらにも立たないスタンスで製作されているところがいいなと思った。
批判はせず、称揚もせず、擁護もしない。
判断するのは観客だということか。

オッペンハイマーも不倫したのか〜。
核兵器についてだけでなく、そういうプライベートな面も。

奥さん凄いね。
不倫相手が不審死(自殺ぽいけど、他殺みたいなのを仄めかすショットも挟まれてたので、真相はわからないけど問いかけにも見える)でグラグラしてるオッペンハイマーに喝を入れたり。
公聴会とかキツかったやろうにな〜と。。

魅惑的な不倫相手をフローレンス・ピュー。
思想的にまっすぐそうなのは似合ってた。

妻役にエミリー・ブラント。
こちらも芯のある役が似合う。



一番余韻を残すのは、やはり最後に持ってきたアインシュタインとの会話の中身が明らかになるシーン。

アインシュタインは、オッペンハイマーが原爆という大量殺戮兵器を作ったコンセクエンスを受けるべきだといい、

「そして、いつか人々は君を十分に罰したと思ったら、もう許した証として君を表彰するだろう。でも忘れるな。その栄誉は君の為ではない。自分たちが君を罰したことを君に許させるための物なのだ。」

と言う。

そう言って去ろうとしたアインシュタインを引き止めてオッペンハイマーが話しかける。

「いつか地球を燃やし尽くす核爆発の連鎖反応の話をしたでしょう、あれですけどね、成功したと思います。」


これを聞いて言葉を失うアインシュタイン。
だからストローズが話しかけても無視してしまった。
これを猜疑心からストローズが勝手に誤解していただけ、という。



アインシュタインは全てを見通してたのかと。
この会話は映画のラストだけど、時系列的には真ん中に当たるんよね。

そして、この映画の肝は最後のオッペンハイマーの言葉にある。

実際に一回の核爆発が地球を連鎖反応で燃やすというのではないけど、「核兵器」を手にした人間が地球を燃やし尽くすだけの核兵器を作り続けることに、という。



むむむう。

ノーランのいう「オッペンハイマー後の世界を生きる私たち」ということを考えさせられた。


色んなところにメタファーとか含まれてそう。

そして、豪華すぎる出演者。

ノーラン作品に毎回脇役で出てるキリアン・マーフィーが遂に主役。
顔アップで心情を表すシーン多かったけど、どれも繊細に表現していた。

RDJも良かったな〜。
またまた傲慢な役やけど、出世欲と猜疑心で器小さいという。
こういう演技もいいですね。

マット・デイモンの将校良かったなぁ。。
ああいう立場も考え方も違うのに段々理解者になっていく展開いいね。


ジョシュ・ハートネット、ケネス・ブラナー、ジェームズ・ダーシー、デイン・デハーン、デヴィッド・ダストマルチャン、ラミ・マレックとか、少ししか出番なくても印象に残る名優揃いやった。

ゲイリー・オールドマンのトルーマン大統領もインパクト。
確かに、作った科学者より落とした大統領の方を恨むやろけど。


十分良かったけど、たくさん出てきた科学者たちのこと詳しかったらもっと面白かったやろな。ノーベル賞取った人もいたみたいやし。ノーベル賞アベンジャーズて感想書いてる人もいたくらい笑



3時間あったけど、ダレずに集中しっぱなしで見れた。
神経質なほど計画されてる作品。
無駄?あそび?の瞬間の無い作品でした。


うーむ。考え込む作品。

核兵器が二度と使われることのない世界にしないといけないけど。

でも、核の連鎖が起きてしまうのだろうか。

うううむ。
ゆかちん

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