みるめ

オッペンハイマーのみるめのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

戦時中の出来事を題材にしている映画ではあるものの、ただ凄惨さや教示を突きつけるわけではなく、オッペンハイマーという人間と化学兵器に焦点が当てられているのが良かったです。

個人的には原爆による痛ましい被害を描写されていないのは正解だと思いました。
なぜなら、この映画の論点は、過去に起こった事実を知るだけでなく、オッペンハイマーという人物を通してこれから起こりうる事象を想像することにあると考えられるからです。

もちろん、戦争によってどのような被害があったのかを知ることはとても大切なことであり、映画をきっかけに知るというのも素晴らしいことです。
しかし、今の時代、知りたければ調べる手段がいくらでもあり、学ぶ機会にも恵まれています。
ただ凄惨な事実を見せられても、全会一致で「戦争は良くない」という結論が出るだけです。
現代の戦争や伝記映画は歴史を学ぶだけではなく、これから起こり得ることを考えることが必要なのです。

誰もが望まない争いがなぜ絶えないのか、なぜ甚大な被害をもたらす化学兵器を開発するのか
戦争を経験しておらず、化学にも精通していない人間にとっては、なんとなく善悪を考えるものの、結局は本の中での出来事としか感じることができません。
現に、ウクライナやイランのニュースを見て、「いつかまた日本でも戦争が...」と頭をよぎっても、「いや、そんなまさか」と一掃している自分がいます。
それは知識の浅さもあるけれど、想像ができない、自分とは別の種類の人間がやること、と無意識に区別しているからです。

でもこの映画を観ると、自分と同じ人間がやることなんだと現実を見させられ、当時者として立たされます。
オッペンハイマーも、化学者ではあるが、少し何を考えているのか分からない、女たらしで、でもリーダーシップのあるどこか魅力的な血の通った人間でした。
オッペンハイマーの視界を部分的にでもこの映画で享受したことで、「いや、そんなまさか」とは言っていられない、世界が今どれだけ張り詰めているのかを考えます。
オッペンハイマーだけではなく、沢山の登場人物の視点も借りることができました。様々な立場からのシーンが多い分、一概に何が善で何が悪と言えないのも、とても現実的でした。

映画でも、一般の人は実際に起きないとどれだけ惨いことが起こるかわからないというセリフがありました。私達は第二次世界大戦の人々よりも、こういった映画を通して、視覚的に可能性を知る事で、微量でしかないだろうけれど、一掃してはいられないと危機感を得ます。
知識を与えてくれたというよりも、視野を広げてくれたということがこの映画を観た後の充足感に繋がりました。
みるめ

みるめ