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オッペンハイマーのsinginggizmoのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0
ノーラン作品はいつも構造やギミック、映像の凄さが前面にきて、キャラクターの人間性に心底共感したり、面白みを感じれずにいた。
あくまでフィクションの中の人という印象だった。(フィクションだから間違いないのだが)
けど、この作品は史実に基づいていることもあり、オッペンハイマーをはじめとするキャラクター達の複雑な人間性が感じられて、これまでのノーラン作品の中で一番興味深く引き込まれた。
とはいえ、時系列をいじっていたりノーラン節は相変わらずのため、1回で理解しきれず、2回目でやっと腹落ち(笑)
そういう凝った演出も嫌ではなく、意図があるに違いないから解りたいと思わせる力がある。
そして、2回目の方が断然おもしろく、情報量がかなり多いので何度も繰り返しみたら新しい発見、解釈ができる作品だと思った。

自分は、生まれた時から原爆が存在する世界を当たり前に生きてるけど、原爆がなかった世界とでは明確に違う世界になってしまったんだ…と改めて感じた。
オッピーの師匠、ニールス・ボーアのセリフ(君がつくろうとしてるのは世界だぞ、わかってるか?的な)が、本当にその通りだなと実感する。
オッピーも想像できたはず、自分やプロジェクトを止めることもできたはずなのに、止まらなかったのは何故なんだろう…作中で答えは示されないが、オッペンハイマーという人の様々な描写から推察をいくらでも深められるのが面白い。

キリアン・マーフィー、そんなオッペンハイマーの複雑な感情、よくわからん人間性を表現した演技が素晴らしかった。
オッペンハイマーは女性にモテるし、学生にも人気、プロジェクトリーダーの才能もあり、人を惹きつける魅力がある。
一方で、女性関係にだらしなく(しれっと友人の妻とも不倫する)、自分の行いを神格化して自己陶酔的、無神経な言動で人を傷つけたり(恨みを買う原因、無意識に他人を見下してる?)、後先考えず欲求で突っ走ってしまったうえで後悔したり、かなりダメな部分がちゃんと描かれている。
オッピーの天才性にワクワクしたり、原爆開発にある意味利用されたことに同情しつつも、「あれ、何だこいつ?」と思わせる複雑な人物描写が良かった。
ジーン・タトロック、妻キティとの描写がかなり重要な要素として描かれているのも良かった。

登場する科学者達がほぼノーベル賞を受賞したようなスターばかりなうえ、それを演じる役者達もスター揃いで眼福。
本筋とはあまり関係ないが、いつも蜜柑を持ってるオッピーの友達の科学者、イジドール・ラビが良い味を出していて好き。
トルーマンがゲイリー・オールドマンだったり、他にもちょい役の豪華さがえげつない。

オッピーと敵対するストローズは、赤狩りや水爆研究の推進という大義名分のためにオッペンハイマーを聴聞会で糾弾する。
蓋を開けたら個人的な恨みが動機っていう、原爆問題と比べたら一見「ちっちぇー、くだらねー」と思えるもの。
けど原爆と同時に、その私怨を描くことに意味があり重要なんだろうなと感じた。
結局、そういう奴ら(自分の利益や復讐のために裏で画策する政治家など)が原爆を落とすか否かなど重要な決定権を持つ恐ろしさ。
ロバート・ダウニー・Jrはさすがの演技だけど、どうしてもずっとロバート・ダウニー・Jr本人に見えてしまった(笑)

原爆の被害についての表現には様々な意見があると思うけど、鮮明に描かなかったのはオッペンハイマーやアメリカ側の当時の認識がその程度のものだったということや、戦争を終わらせるために必要なことだったと正当化したい社会全体の空気の残酷さが表現されていると思った。
オッペンハイマーも破壊者になってしまったんだと自認しながら、原爆による世界破滅のイメージを想像しながら、原爆のリアルな被害には目を向けられない。
原爆を落とさない選択肢もあったのに、アメリカ政府が戦後世界のイニシアチブをとりたいがために日本に落とす選択をすることをきちんと描いていて誠実だと思った。

トリニティ実験の音が遅れる演出は凄いなと思ったが、爆発のイメージ映像と「我は死なり…」の言葉が入るのは、カッコつけすぎな気がしてなんか冷めてしまった。
あとかなり個人的に…実験が成功し、核爆弾が生まれた日が、自分の誕生日と日付が一緒だと知って複雑な気持ちになった。
しかも悪天候で1日遅れたせいで。
まあ、だから何だよって話しなんだけど。
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