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オッペンハイマーのmeのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

誠に恥ずかしながら被爆国で育ったものでありながらその背景の知識が乏しいうえに、この戦争のことについても、ましてオッペンハイマー氏にまつわる史実も理解度が低く、そしてそのまま予習もなく鑑賞をしたままの感想。
(ただ私はたまたま沖縄で育ったこともあり広島の平和記念資料館も長崎の原爆資料館も何度か行き被曝を描いた映像作品は教養としていくつか見ていることから、原爆というものが何をもたらしたかは理解しているつもり)

史実ものの映画、ましてや戦争関連の作品なんて普段は全く食指が動かないジャンルだが、ノーラン監督の最新作だからという理由だけでがんばって観た。
CGを使わなかった事などをきいていたので、映像の仕上がりを期待した。
結論、期待はだいぶ下回ってしまった…。
主にはトリニティ実験のシーンのこと。
核爆発とは、爆発という表現では全く足りない程何もかもを凌駕する途方もない現象だが、あのシーンはただの大きな爆発にしか見えず、オッペンハイマーの成果=すごいおっきい爆弾作った!ぐらいのことにしか感じられなかった。明らかに表現が不足していた。
原爆の被害を全く見聞きしたことがない人間がみたとき、あれをみて「オッペンハイマーが生み出したものはいったいなんなのか」という最も重要かつこの作品の存在の前提でもある事実を正確に理解することはできないと思う。

また、この映画では直接描かれなかった核の効果(被害)が代わりにオッペンハイマーの心情描写として女性の顔が熱線で爛れる様子や灰になった人の死骸を踏み潰す足元等の幻覚のシーンがあったが、
現実に対してやさしすぎて、彼が感じた重圧や罪悪感と事実のギャップの方を感じてしまった。
演出としてはとても効いていたし見応えはあり、心に迫るものはあったんだけど、でも原爆の被害を知って観ると、やっぱりとても弱かった。
世界の人がこの作品を観て原爆を振り返るきっかけになればよいが、これだけを観て知った気になられてはたまらないなと思うものがあった。

この映画を観た後に改めて原爆のことや関連映像を少し観たりしたけど、やっぱりこの映画は中途半端。
ただの人間としてのオッペンハイマーを描くなら巧みで上質だが、でもオッペンハイマーは確実に原爆の父であって、その最中を描くならば、徹底的に描かなければ意味がないと思う。
同じトリニティ実感を描いた映像の比較対象として挙げられているツインピークスの「火はあるか?」も観たけど、やっぱりあれくらいの描写がないと、核を説明できない。
今回、ノーランはCGを使わないことでリアリティを追求したかのようだが、それは最初から無理な話だと思う。
核は実験段階とは言えCGを使わずして本物以外にリアリティを再現することはできない。物理なのに超常的なまでの威力をもったあの爆発は、おそらく過剰までの演出、リンチほどとは言わずとも即物的な描写だけでは足りないものなんだと思う。
それらを描ききれないことには、核を最も理解していたはずのオッペンハイマーの不安や後悔も真に描くことはできないだろ、、、

実際、足りないことばかりを感じる映画だったけれど、心に余韻は残った。
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