あんがすざろっく

オッペンハイマーのあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.7
時期を見送っているうちに、今になってしまいました。
ちょっと腰が重かったのも事実です。

今までのノーラン作品にあったエンタメ性とは、性質が明らかに異なっているのが観る前から分かっていたんですよね。
日本での公開が危ぶまれていたのも知ってたし、その理由も理解しています。



物理学300年の歴史の集大成が、大量破壊兵器なのか。

オッペンハイマーが直面した苦悩。
自分が生涯を懸けて追い求めた研究の先にあるものが、こんな結果をもたらすなどと、想像もしてなかったでしょう。

その手から離れていってしまった、余りにも巨大な成果。

実験後の割れんばかりの喝采と拍手に、得も言われぬ感情が渦巻きました。


これは、劇場で観るべきであると同時に、どのようなメディアかを限定することなく、見た方が良い作品なのだと思いました。


正直、難しい構成の話ですよ。
原爆に対する問題提起でもあり、中心にあるのは「オッペンハイマー事件」の真相を詳らかにするもの。
登場人物は多く、その立場であるとか、主義や理念を理解するのに一苦労で、時間軸も交錯するので、頭を整理するのに精一杯。

だから、まず劇場の大スクリーンでその大筋を理解した後で、もう一度DVDやサブスクで内容を確認する必要があると思いました。

「テネット」のように、何回見てもちゃんと理解できないといった、まるで迷宮のような作品ではなくて、何度か見れば話の展開は分かる作品のはずです。
ただ、見るのに大変体力を要しますね。
事前の予習が必要だったとも痛感しました。


オッペンハイマーを演じたキリアン・マーフィ。
今までも彼の作品は何本か観ていて(それこそノーラン組ですから)、その度に「ヌルッとした、爬虫類(ホントにごめんなさい🙇)」というイメージがあったんですが、声質もなんだか今までちょっと感じが違って、驚きました。
脇で光る印象が強かったけど(主演作も今まで勿論あったんだろうけど)、ついに大作での主演作、しかも様々な映画賞で主演男優賞を受賞、ようやくその実力が認められたんですね。
アカデミー賞においては、アイルランド出身の俳優では初の主演男優賞受賞者になったとのことです。

原子力委員会の委員長ストローズに、ロバート・ダウニー・Jr。
オッペンハイマー事件の中心人物であり、なかなか手の内を見せない、狡猾なキャラクターは、キャリア集大成とも言える演技で、マーフィと同じく、多くの助演男優賞を獲得しています。

陸軍将校で、マンハッタン計画のリーダーにオッペンハイマーを抜擢するグローヴスに、
マット・デイモン。
職務とオッペンハイマーとの関係性の板挟みの中で、はっきりとした立場を表せない苦渋の演技を見せてくれます。
デイモンにこんな貫禄がついたとは。

オッペンハイマーの妻キャサリンに、エミリー・ブラント。
日常生活の疲弊からアルコール中毒となりますが、毅然とした態度で夫とも対等に向き合い、時にオッペンハイマーを叱咤し、鼓舞します。
危うい精神のバランスを、ブラントが強烈に表現しています。

オッペンハイマーが大学で教鞭をとっていた頃に恋仲だったジーンに、フローレンス・ピュー。
共産主義者であった為、彼女との関係が後々オッペンハイマーを窮地に追い込みますが、周りが思っているよりも、二人の繋がりは単純ではなかったのです。
ピューが文字通り、体当たりの熱演を見せてくれます😳。

他にも、ケネス・ブラナー、ラミ・マレックや、特別出演のゲーリー・オールドマンと、キャストが大変多いです。


クリストファー・ノーラン監督は、本作で数々の監督賞を受賞、名実ともに映画界のトップクリエイターになったのではないでしょうか。
今回の受賞で、イギリスからは奥さんのエマ・トーマス(ノーラン作品のほとんどをプロデュースしています)と共に、ナイトとデイムの称号を授かっています。


ただ、個人的にはノーラン監督は、随分高いところに行ってしまったなぁという印象。
彼が宇宙や時間軸に興味があるのはよく知られていることで、今までも様々な形で驚くような映像を見せてきてくれましたが、純粋なエンターテイメントからは離れていっている気がします。
批評家からは絶賛されますよね。
このテーマを選んだ時点で、純然たるエンタメにはならないことは分かっていましたけど、監督には必要なステップだったんだと思います。
スピルバーグ監督が「シンドラーのリスト」を撮ったように。


今回の劇場鑑賞では、大枠を把握できたという限りでのスコアです。
もう一回ぐらい、DVDや配信で見返したら、スコアも変わってくるはず。
そんな魅力と余白は確かにありました。



「世界はこの日を忘れない」
あんがすざろっく

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