まさにスクリーンで観るべき作品。
登場人物の多さ、難解さ、3時間の長丁場、事前にドキュメンタリーなどで予習をしてから臨むも、かなりの集中力を要するとみて、IMAX、個室感覚のプレミアシートにて鑑賞。
天才科学者の頭脳と心を五感で感じさせる“没入体験”を目指した演出、とある通りオッペンハイマーの視点や矛盾、苦悩を主観的に観ているかのような感覚に陥る、という点では映画としてとても効果的で良作であると思う。
モノクロとカラーで時系列と視点が交錯するのも、思っていたより分かりやすかった。
キリアン・マーフィーの繊細で矛盾に満ちた天才科学者の不安定な面や、ロバート・ダウニーJrの狡猾な歪んだ表情、この時代にあって自立した自己主張の強い女性ながらも夫のよき理解者で寄り添い続けたエミリー・プラントの演技もよかった。
一度観ただけでは把握しきれない数々の登場人物も贅沢な配役で見応えがある。
ただ多くの日本の観客が感じたように、原爆を落とされた側のその時の現実が殆ど描かれていないのは非常に残念。
トリニティ実験が成功し歓喜をあげる科学者達への違和感は、日本人だから感じるのではなく、想像を絶する大量殺人破壊兵器を作り上げた事がなぜそんなに喜ばしい事なのか、キノコ雲の下一瞬で日常を奪われ炭化していった人々の命の尊厳を思えば、決して喜ばしい事ではないはずだ。
素晴らしい頭脳を持ち想像力に満ち溢れた天才科学者達が、自分達でさえ扱えないモノを生み出してしまったこと、その先に何が起こるか想像すらできなかったことがただただ悲しい。
80年経った今でも戦争を終わらせる為に必要なことであったと正当化し、核の抑止力という言い訳で未だに核兵器がなくならない世界。
クリストファー・ノーラン監督の手法は素晴らしいと思うが、観客に描かれていない部分を委ねる以前に、未だに想像すらできない多くの人がいるのも実情である。
映画としては素晴らしかった。
また改めて何度か鑑賞してみたいと思う。