しゃけ造

オッペンハイマーのしゃけ造のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
-
百の人間に百の人生あり。理論物理学者であり、科学のセールスマンであるオッペンハイマーの人生を史実に忠実に、しかし大胆に脚色して描かれた作品。特にニールス・ボーアやアインシュタインなど、当時のトップ科学者が出てくるのは激アツ。逆に、名前だけでてきたハルデンベルクの映画とか、作ってみたら面白いと思った。歴史改変ものは好きではないが、この演出であればむしろ許せる。
群像劇形式で、科学のセールスマンであり科学を純粋に追求するオッペンハイマーが、戦争の大義や赤狩りによって、理屈に縛られていく様子を描いた作品だった。冒頭でプロメテウスの話がされていたが、火を持った科学者は罰せられない(代わりに大統領が恨まれる)。故に科学は純真無垢が許されるように見えるし、オッペンハイマーにもそれに対する甘えが見えた。しかし、ノーランがオッペンハイマーを取り扱ったのは、これが原因だと感じる。原爆の問題を通り越し、科学の欺瞞と、それに対する人類の傲慢を風刺したかったのだろう。近年、「生成AIは善か悪か」みたいな頭の悪いディベートが生まれ得る程度に、人類は科学の力をコントロールできていない。それに対するアンチテーゼとして、原爆という火を作り、その結末をコントロールできなかったオッペンハイマーという人物を描いたのだろう。