Brynhildr38

オッペンハイマーのBrynhildr38のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.1
難解。
原子爆弾の父こと、理論物理学者ロバート・オッペンハイマーの栄光と没落を描いた伝記ドラマ。2024年第96回アカデミー賞において、作品賞、監督賞、主演男優賞(キリアン・マーフィ)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)、編集賞、撮影賞、作曲賞を受賞。

ストーリーは、第二次世界大戦中に原爆開発を推し進めるアメリカ政府から、プロジェクトのリーダーに任命された天才物理学者オッペンハイマーが、科学者たちと研究を重ねてついに原爆を完成させるが、実験での威力や実戦での惨劇から、後に開発される水爆に反対の立場をとり、以前から彼に私怨を抱いていた政府高官ストローズが画策した罠に嵌められていくというもの。

この作品を難しくしているのは、登場人物の多さもさることながら、字幕では追いきれない膨大な会話劇に加えて、時系列もシャッフル、さらに「カラー」と「モノクロ」パートに分かれる構成で「カラー」はオッペンハイマー視点、「モノクロ」はそれ以外(ほぼストローズ)の視点。しかも「カラー」パートの方が過去時間という、なんとも凝った描かれ方によるもの。(鑑賞前に教えて欲しかった)

もう一つ、冷戦期のアメリカの「赤狩り」の猛威についても説明が無いので、事前予習しておくと作品への理解が深まるはず。

難しいテーマを織り込みつつ、娯楽性とかエンターテインメント要素が希薄であったにも関わらず大ヒットさせてしまうところは、映像の魔術師たるノーラン監督の手腕によるものでしょう。

主なキャストについて
主役のJ・ロバート・オッペンハイマーを演じたのは、「ピーキー・ブラインダーズ」などの時代物で存在感を放つキリアン・マーフィで、ほぼ出ずっぱりの熱演。もう一人の主役といっても差し支えないルイス・ストローズを演じたのは、ロバート・ダウニー・Jrで、観終わるまでアイアンマンと気付けないほどの額剃り上げ過ぎの貫禄。オッペンハイマーの不倫相手ジーン・タトロックを演じたのは、超売れっ子のフローレンス・ピューで、この作品でぴゅーっと脱いでいたのにびっくりの眼福。

題材ゆえに日本公開が先延ばしになりましたが、広島、長崎への原爆投下の直接的な描写はありません。ただ原爆死没者名簿には、広島・長崎併せて51万人以上(2021年)が記載されていることを思うと、作品自体への評価は別として、広島・長崎への原爆投下に正当性なんて無いことや、人類、そして日本は核兵器や戦争に対してどのように向き合うべきなのか等々、様々な感情をめぐらせるべきと思います。
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