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オッペンハイマーのfumingのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.4
原爆の父であり、世界を変えた男の物語。日本人的には少し複雑な人かもしれない。
本作は非常に高速なカット割と時間系列がしばしばジャンプすること、そして登場人物の詳細な説明がほぼ無いことから、毎度のノーラン作品の通り少し予習をしてから観に行ったほうが良いと思う。逆に作品構造と誰が何をした人かを軽く分かっていれば結構スイスイと物語に入っていける。

内容としては、原爆を作ったオッペンハイマーの半生と原爆を作るに至った道、そしてその罪の意識を描く物語。正直言うと、本作はトリニティ実験の一連の流れがピークであり全てかなと思う。というのも原爆を作るまでに科学者オッペインハイマーが上手くいかなくて苦悩するような展開や、ライバルの天才科学者と競い合うようなものでもなく映画として少し張りが無い。また、原爆の有り様を見て激しく苦悩したり病んだりするシーンさほど無く、その後の裁判のシーンに映画は終始する。彼らにまつわる相関図や歴史を理解しているとこの法廷劇は見どころではあるのだが、いかんせん本作だけを観た人ではかなり難解だろう。逆にトリニティ実験の緊張感と、原爆の光が閃いた瞬間は凄まじい臨場感があり、オッペインハイマーが感じたであろう超常的な想い、そして対となる虚無感を確かに感じることが出来る。

所感としては、もう少し原爆後のオッペインハイマーの物語を見たいなと思った。特に大統領との会話など、原爆という人智を超えた兵器が出たにも関わらず、それまでの兵器と同じように使おうとする人間の愚かさに失望していく彼の姿は、偉大な科学者から世界の死神に変貌したオッペインハイマーの無常感を感じられるシーンだと思う。そういう意味では、本作の締め括りとなったアインシュタインとの会話は非常に美しい。
また余談にはなるが、やはりこういう映画ではあまりノーラン監督本来の魅力は引き出せて無いかなと感じた。ノーラン監督は日本人に生まれていればアニメーションの監督になる人だったと思う。スコセッシ監督などが本作を撮っていたらどうなったのか気になるところである。

さらに余談だが、大佐役のマッドデイモンを鑑賞後までディカプリオだと思っていた。最近マッドデイモン出てこないなと思っていたら……そうか、ディカプリオがデイモンに寄ってきてバッティングしてるんだなって。
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