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オッペンハイマーのISHIPのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

めちゃ好きな監督という訳でもないんだけど、なんやかんや映画館に足を運んでしまう、でお馴染みのクリストファー・ノーランの最新作がようやく日本で公開。公開前から色々と騒ぎがあり、日本での公開は延びていた訳だが…公開されて良かったです。
まず、冒頭の情報量の多さに置いていかれる。このシーンが何年のことで、こいつは誰なのか、なんの説明もない。人間関係についての前提の言及もほぼなく、事前に情報を入れていくか、鋭い察し能力がないと1回目の視聴で全てを把握することは困難に思える。少し情報を入れていった僕だったが、僕の処理能力ではその程度の予習ではやはり少し置いて行かれてしまい、理解しきれていない部分が出来てしまった。それは(こんなこともはや言われ尽くされていることではあるけど…)、異なる時代・場面のことが、同列に並べられている、まさにノーランのシグネチャーとも言うべき構造がそうさせているのは言うまでもないのだが、それについては、むしろ話の大筋を捉えるにはむしろ分かりやすくしてくれてすらいる側面もある。つまり、この映画は確かに難解であり詳細を理解するには複数回観ることや予習を余儀なくされるものの、この映画が結局どういう話であるか、というのが分かりにくくなっている訳では無い。今この話についてのターンです、と提示されているというか。オチとしても、その言葉をその時点で言われていたのだよね、それがあとになってオッペンハイマーに効いてくるということだし。僕はこの映画がノーラン作品の中でかなり好きな方になるなあと思っているのだが、それはこの構造にあるのかもなあと観終えて時間が少々たった今思う。
かといって、すごく快適な映画体験なのか、というとそういうわけでもなく。ひとつは音。珍しくBGMが鳴り続ける映画なのだが、要所要所の音がめちゃデカい。IMAXじゃなくてもデカい。IMAXだったらマジで辛かったかもしれない。これは意図的なもので、音による不快感が原爆の脅威性に相関するというか。
原爆と言えば、広島、長崎の惨状が描かれていないことについて。確かにオッペンハイマーは爆弾が落とされた時そこにいた訳ではなく、実際に惨状を見ていたわけではない。のだが、アメリカでその映像を観ている描写はあるわけで。映画の中にそれを入れ込むことは出来たのでは、とは思う(僕が思ったと言うよりはラジオで被爆二世の方の本作に対するメッセージを聞いてそうだなと思った)。オッペンハイマーが原爆投下成功の後、スピーチをするシーンで、彼は目の前にいる人々が原爆被害を受けたような幻影を見る。その時黒焦げになった死骸を踏む描写や女性の皮膚が剥がれる描写がある(ノーランの娘らしいが)。いや、あんなもんじゃないはずなんだよね。でも、逆に、オッペンハイマーの?アメリカの原爆に対する意識ってこんなもんなのだよ、とアメリカへの風刺とも取れるのかもしれない(ノーランはイギリス人みたいだし、なんだかなあとも思うが)。それにしても、あのスピーチのシーンの一連はこの映画のハイライトで間違いないですよね。日本人として、なのかあの観衆たちに腸が煮える気持ちになる。またその光景を見たオッペンハイマーの後ろにある壁が揺れ動く演出と、彼自身の気持ちの揺れが始まる。すごいシーンだったと思う。
また、そのシーン含め、めちゃ人へのアップが多いという点。それをわざわざIMAXで撮るということ。僕はIMAXで見てない訳だけど、この点は僕は好きだったな。かなり狭い空間の絵も多かったけど、全然好きだったな。好みの問題なのか。でも、オッペンハイマーの聴聞会で、女性との関係ついて詰問されているとき、文字通り全裸になり、妻の視点で彼とフローレンスピューがセックスするシーンがあるけど、あれはいるん?笑 ってなりました。ウケたちょっと。
前述の、広島・長崎の被害の描写が少ないなど日本国内での公開に際し色々なことがあった訳だけど、僕としては公開されて良かったと思うし、日本人としてこの映画を観ることは大事なことなんじゃないかと思う。この映画を観て、主要人物であるオッペンハイマーやストロースだけが悪いやつなんだ、とか思う人はいないと思う。というか、マット・デイモン演じる軍人はマジで醜悪なやつだよね。日本人の立場から言ってマジで軍人や政府の人間らの言動は許し難いものがある。けど日本がただの被害者だけである訳では無いし。科学者たちは元々戦争のために研究している訳では無いけど、自分らの研究の危険性を知っていつつもその成果を知りたくなってしまう。また、それらの行動の後、世界はそれ以前とは全く別の世界に変貌してしまう。それは研究者たちの思っていたよりも大きな変化だったんだと思う。そんな色んなものの連なり。どうなれば良かったのだろう。兎にも角にも、人間とはなんと愚かしいものなのだ、というところに落ち着いてしまうけれど…まとまれない映画っす…。
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