ノーランの世界観というものが高度な編集とともにお出しされた高難易度の作品の一つだと思う。
まず当然のことながら、近現代の物理学を知っている人間は楽しめる度合いが跳ね上がる。でもさ、ノーラン、普通は知らないんだよ。
何語っても映画の感動を減弱しそうなので、「被爆描写が乏しい」という批判についてだけ語ろうと思う。
実際乏しい。ほんの数秒で落とされたことは片付けられる。
でもこの映画は原爆の悲惨さではなく、世界を変えるほどの兵器を開発した研究者の苦悩である。被曝の悲惨さが知りたければ『黒い雨』でも観た方がいい。否定のしようがなく、原子爆弾は悲惨な兵器である。この映画でその描写に重きを置くとそのインパクトでノーランが伝えたかったことがボケてしまうと感じる。
被爆国であるという感情は、この映画の感想に偏見を与えてしまう。その偏見自体は一個人の意見だから全く問題ないが、ノーランはその視点で何を伝えたかったのか、そういうことに想いを馳せるというのも重要な気がするんだ。