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オッペンハイマーのnatsumeのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
2.8
クリストファー・ノーランにしては人間ドラマ中心で、映像もそんなに酔わないけれど、浮気のシーンとかやはりどこか悪夢的なところはノーランっぽい。バーベンハイマー事件やら、「被爆描写は甘いらしい」といった前評判のせいで見る気を失った人も多いかと思うけれど、広島長崎の様子なんかちっとも出てこないことこそが、この映画の描く「戦争のグロテスクさ」の肝でもあるので、そこにケチつけるモノではないかなと思う。「この世界の片隅に」的な世界観の対局に、広島長崎の原爆投下があり、パレスチナにおける民族浄化がある、ということをそのまま描いているので、あの原爆投下地を決める会議のシーンに戦慄することのほうが、オッペンハイマーが見る被爆の幻想が表現としてリアルであることより、この映画としては重要なんだろうと思う。にしてもチャチではありましたが、そのへんはアメリカにおける受容の限界ということもあるのかなと。プロジェクトXだとおもってカネ落としてくれる単純なアメリカ人も客として来てくれないと制作費回収できないだろうし。クリント・イーストウッドのいくつかの監督作のように、右翼にも左翼にも多義的な読みを可能としておいて興行的にも成功させる技をうまく使ってる感じ。その被爆イメージがチャチであることこそ、科学者の罪深さの表れとも言える。この映画はノーラン好きっていうことだけではなく、広島への初めての旅行の前に見ておこうと思って見ました。映画の中でも「同じ出来事の見え方の違い」が繰り返し描かれるけど、この映画を見たあとで平和記念館と原爆ドームにいって、同じ出来事の見え方の違いをメタでも重層的に体感することができた気がします。
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