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オッペンハイマーのプライのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
5.0
アメリカ国内外から圧倒的支持を誇るカリスマ映画監督クリストファー・ノーランが、原爆の父ロバート・オッペンハイマーを用いて、ノーラン味マシマシ(個人的には一部、特濃すぎて食傷)で練り上げた反核・反戦映画。

ノーランの得意技である時系列のシャッフル。生々しさが際立つVFX。感情を表に出さないオッペンハイマーの内情を表現した不穏な劇伴の数々と爆音すぎる音響。それらを視聴者の感性へ伝導させる見事な編集力。オッペンハイマーの一人称による自責の念が感覚的に伝わり、核兵器を作ることや戦争を起こすことは悪行なのだと身を持って体感する。特に原爆の実験シーンは良い意味でトラウマになる体験であり、これを見て核兵器を起動させたり流通させたりする気持ちも理論も吹っ飛ばされる。

本作は、理屈で考えるタイプの作品ではなく、目に映るものを直感で吸収していく体感型映画に位置付けられるのはノーラン監督作の基本構造に乗っている。だが、本作は題材を原爆の父オッペンハイマーにしたことで視聴者の感性への当て方が違う。同じ戦争映画であるノーランの過去作『ダンケルク』や他のノーラン監督作とは違って、本作はノーランの作家性がエンタメとして消費されることはなく、視聴者に反核・反戦を抱かせるように作品のテーマが視聴者の感情に直撃している。感性に訴えるための最適な時間操作も本物味あるVFXも作品にライドするために導入する劇伴と音響の導入も基本的にエンタメとして活用され続けてきたが、それらをフル活用すれば、視聴者の感性に作品のテーマをインセプション(植え付け)させることが出来ると本作で示した。反核・反戦というのは、誰かの主張を聞いて、誰かのテキストを読んで、誰かの作ったコンテンツを視聴して受信するものがメインだけど、体感的に反核・反戦を得るために本作が生まれた意義がある。

個人的には中盤以降、劇伴と音響が喧しいと思った。物語の読み取りはおろか、字幕を読むのに集中力が削がれた。劇伴と音響ばかりが頭に入り込み、物語の内容が頭に取り込み切れなかった。ラーメンで例えるなら、美味しく麺をすすっていたのに、途中から麺の食感が消失してスープの味しか感じない的な具合。(この例えで伝わるのか?)シーンに合わせた劇伴と音響を流し続けるのはノーランの持ち味なのは分かるけど、濃厚すぎた。「あっ、もう、いいっす!大丈夫っす!もう十分、オッペンハイマーとノーランの気持ちは分かったっす!」と両手を押してしまった。世界の破壊を伝えるために、視聴者の聴覚を破壊しないでくれよ。


⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐
演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐
設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐
星の総数    :計20個
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