麗香

オッペンハイマーの麗香のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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とんでもないものを見てしまった
これは人類への警告だ…
映画館から出てきて頭痛と腹痛が止まらない……SFだとかではなくここまでリアリティを持って世界の破滅を意識したのは初めてだった。

頭の中ではわかっていた「核戦争は人類を滅ぼす」ということを初めて本当の意味で理解したと思った

ひとつも無駄な描写がなく
科学者たちが見ていた世界観の表現のリアリティも凄まじく
映画としては本当に見事だったと思う

今思うと、序盤のリンゴは
特殊相対性理論の元になるニュートン力学、物理学の象徴であると同時に、アダムとイブが食べた人間の「原罪」も連想させる。
それに彼の人間的な不安定さから無実の人間への毒を注入し、のちに後悔する様は
序盤ながらこの映画全体のメタファーであったことに気がつく。そして核兵器という、終わることのない人類の罪の扉を彼は開くことになる。

科学者たち自身がその罪を真に理解した時には、もうそれがまた次の科学者へと連鎖的に移されていく。
それが描かれる最後の描写からは
これは単にオッペンハイマーの記録ではなく、現在を生きる人間への忠告なのだと突きつけられる。
受賞という晴れやかな舞台を、ここまで戦慄して目撃したことはなかった。


あのアインシュタインの顔は、
地球の破壊に加担した罪を背負う科学者の顔であり

それを自身の地位や名誉の観点から勘繰り続けるストローズの視座の低さとのコントラストが凄まじかった。

まさにこの世界、地球の破滅は、
宇宙の根源に迫るほどの卓越した科学の力と、
(宇宙史的に見れば)短期的な利益や、イデオロギーのようなある種曖昧な正義を追い求める人間の都合によって
生み出されるのだと、痛烈に暗示されていたと感じた。

その点で言えば、オッペンハイマーは
そのどちらも持ち合わせて(しまって)いた人間であったのだな、と気がつく。

しかしここには「絶対的な悪」が存在していない。
そこに絶望があると思う。

オッペンハイマーだって、有能な科学者であったと同時に、その時代に生まれた一人の人間だったに過ぎない。この映画にはこれが痛いほどに描かれている。

私たちが最悪の事態を逃れるには
この地球上の全人間が、核戦争がこの星の終焉に向かわせることを真から理解するしかないのだろうけど、残念ながらこの可能性は「限りなくゼロに近い」のかもしれない。
麗香

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