幽斎

オペレーション・フォーチュンの幽斎のレビュー・感想・評価

3.6
レビュー済「ジェントルメン」Guy Ritchie監督がJason Statham主演で描く、お気楽スパイ・スリラー。Tジョイ京都で鑑賞、今ならアマプラ会員は0円、何でやねん(笑)。

東西冷戦が終結、超大国が表向き争う事を止めても、依然としてスパイ映画は人気のジャンル。超大国と本人は思ってる中国はアメリカ映画には大事なお客さんなのでロシアの様に下手にコキ下せない。依然としてロシアや中東のテロリストが敵と言う、お役所も顔負けのハンコで押した様なテンプレばかり並ぶ。

私の専門はミステリーですが、本の世界ではスパイ小説は「Techno-Thriller」と呼ばれ、ハイテクと言う意味では無く軍事要素が主体。現在進行形「007」「ミッション・インポッシブル」「キングスマン(?)」も、テーマは軍事機密で本作もマタ然り。テレビドラマ「スパイ大作戦」から派生したM.Iシリーズと「ボーン・アイデンティティー」除けば、多くの作品のコアはイギリスで有る事が多い。

超大国のアメリカ本人が主役では「お前、何言ってんだ」ツッコまれる要素が満載なので、同盟国でアメリカを俯瞰して見れるイギリスが何かと収まりが良い、小説の世界も同じ。イギリスと世界中から批判を浴びるイスラエルは、日本より軍事力が下でも諜報機関で、他のフランスや中国を一歩リードする現実。テクノ・スリラーは常に世界情勢とリンクするが、本作の舞台がウクライナと言うのは、軍事侵攻前の全くの偶然。

イギリス映画贔屓の私から見ても絵に書いた様なPopcorn Movie。ジェームズ・ボンドより庶民的、イーサン・ハント顔負けの寄り合い所帯、キングスマンよりも破天荒。ハリウッドのセクハラ大王Harvey Weinsteinが設立したミラマックスは、ハリウッド10大映画会社だが、現在はメジャー、パラマウントが親会社なので安心して欲しい。原作はレビュー済「ジェントルメン」Ivan Atkinson、当初の制作タイトルは、5カ国の機密情報共有の枠組み「Five Eyes」、スタジオから「ソンなお気楽な組織じゃないゾ」お叱りを受け、Stathamの役名に変えた。副題「Ruse de Guerre」フランス語で戦略の狡猾さ。

Jason Statham 56歳、意外な事に初レビュー(笑)。水泳飛込選手→ファッションモデルの経歴で、映画デビューもモデル契約したブランドFrench Connectionが「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレル」後援が切っ掛け。私より上の世代は「トランスポーター」だろうが「エクスペンダブルズ」脳筋映画のイメージも強いが、もっと演技力の評価が高くて良い。イングランド生まれの彼は、北アイルランド出身Liam Neesonの後継者。彼を抜擢したのが、Guy Ritchie 55歳。監督はDyslexia、失語症を早くから告白してるが読み書きに障害が有るケースを指す。日本ではディスレクシアに対する医療機関の認識が乏しく、仮説だが日本人が外国語が苦手な理由にも挙げられてる。

原作を見たStathamが「コリャ面白い」自らプロデューサーに成り、イギリス人主体のキャストを招集。私の生涯一位作品「SAW」Cary Elwes。レビュー済「ジェントルメン」Hugh Grant。レビュー済「ザ・コントラクター」Eddie Marsan。アメリカからレビュー済「マイナス21℃」Josh Hartnett。しかし、配給元のLions Gateが予算を渋った為、スパイ映画らしくロンドン、マドリード、ロサンゼルス、モロッコ、カンヌ、トルコ、ドーハと高級リゾートを転々とする様に見えるが、実際のロケはトルコとカタールのみ(笑)。だから本気の異国情緒が感じられない。北米興行成績も初登場7位と撃沈した。

良くも悪くもGuy Ritchie節が不発。テクノ・スリラーの潮流から「未だに」物理的なモノを奪い合うのは「ミッション・インポッシブル」最新作の敵がAIに較べると実に古めかしく、裏切りの連鎖はイギリス映画のマストだが誰が敵で、どの手下を倒してるのかセンス任せの演出で分り難い。トピックに乏しく、既視感満載の114分では評価が厳しいのも当然。不発の原因はボンドガールじゃね?。レビュー済「TENET テネット」Elizabeth Debickiに声を掛けたが身長191㎝!、Stathamが私と同じ位の178㎝、出演してれば随分とルッキングが違う筈だが、実現しなかった理由は何となく分かる(笑)。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

ダメな理由を考察すると要因は二つ或る。一つは世界的危機が「金融」。銀行がストップすれば困る、ホントにソウでしょうか?。緊急で病院に来ても現金を持って無いので支払いに困る、キャッシュレスを時間外に行える病院は少ない。タッチ決済やQRコード決済で事足りる生活では現金は無い、と言う方は普通に多い。だから、銀行なんて用無しで困らない(笑)。金融危機で困るのは富裕層だけなのだ。

もう一点はStathamが「無敵の人」。味方も安心安全が担保されたプロットが観客に〇バレで、緊迫感も決定的に足りない。即席チームが有能過ぎて敵だけが殲滅されるのは時代遅れの産物。本家「007」Daniel Craigは銃で撃たれれば瀕死の重傷を負うし怪我をすれば血も流れる。Pierce Brosnanの様に、スーツ一つ汚れないスーパースパイは時流に合わないと交代させた、同じイギリス映画でもテクノ・スリラーのムードが本作から全く感じられない。アメリカの評価も「Did you really direct it?」疑われる始末(笑)。「予想を超える展開」が無いとスパイ映画は失格なのだ。

「週末なに観ようかな?」ソファで寝転んで見るには丁度良い、じゃ良くないけど(笑)。
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