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ノースマン 導かれし復讐者のしののレビュー・感想・評価

4.1
血生臭く泥臭いヴァイキングのリアリズムと、神話的・超自然的なファンタジー。それらを、シンプルで洗練された物語とカメラワークによるエンタメ性と、鮮烈なビジュアルセンスによるアート性によって融合させた、まさに「両方選ぶ」ことを選択した作品としてとても楽しめた。

ハムレットの元ネタということもあり、シェイクスピア悲劇のフォーマットで人物関係が分かりやすい。基本は復讐譚で、主人公の顛末は序盤で判明しているため、そこへ向け一直線的に進んでいく。しかし退屈しないのは、リアルでありながら舞台劇的で超自然的という独特のバランスが面白いからだ。

作品全体を凄惨な暴力が覆っていて、襲撃シーンの長回しや中盤の「イヤな殺し方博覧会」には性癖すら感じるが、これらをちゃんと恐ろしいものとして描くというバランス。アクションは単にぎこちないのか判然としない部分もあるが、少なくともヒロイックには描くまいという信念を感じる。ある種の距離感をとっているのだ。それは主人公が導かれる「運命」というものが、略奪と暴力を称賛するヴァイキングの単純な世界観認識による「呪い」であることを暗示しているようだ。

だからファンタジー要素がとても自然に同居していて、様々な力が彼の復讐に味方するように導いていく様が危うくもある。面白いのは、全体に超自然的な描写をまぶす一方で、中盤に主人公が行う「ビビらせ作戦」のパートでは超自然的なものへの信仰を滑稽に見せていること。これにより主人公周りのファンタジー要素に異様さと説得力が生まれるし、この面でも距離感をとっている。

そして、こうした暴力や超自然的な展開に魅せられてしまうような画作りをしているのがまた危うさを際立たせる。特に全編通して陰影の描写が素晴らしく、武器を手に入れる試練の場面などは白黒映画のような美しさだし、炎を前に陰影が際立つシチュエーションも多用している。つまりアート性がテーマに寄与しているのだ。

そして終盤で「単純な世界観を複雑化する」ような物語的ツイストが発生する。これを機に、それまでの復讐譚や超自然的な導きにいよいよ「呪い」の側面を見出せるようになる。

ではその世界観を捨てて逃避するのか、はたまた……というところで主人公が選ぶ道が、まさに本作の制作姿勢と重なるのが素晴らしい。自身は復讐の運命に呑まれつつも、そこから切り離す道を拓くということ。それは本作が暴力のスリルと恐怖、あるいは信仰の神秘さと滑稽さ、その両側面をあわせて提示したこととシンクロする。つまるところ、因縁や慣習、習性から完全に逃れることはできずとも、もがくことはできるということではないか。

こう考えると、冒頭で述べたような凄惨なリアリズムと舞台劇的・超自然的なファンタジーの同居、すなわちエンタメ性とアート性の同居というものに必然性が立ち現れてくる。復讐譚のカタルシスやアクションの面白さを期待すると肩透かしかもしれないが、「魅せつつそこから距離を取る」という絶妙かつ現代的アプローチだからこそ語りうる、非常にリッチな神話として記憶に残る一作だった。
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