じゅ

ノースマン 導かれし復讐者のじゅのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

北島康介も驚きの平泳ぎね。

いやーーーー堪んねえな。
神話、魔術師、いにしえ、荒天、手付かずの大地、筋肉、剣、野蛮さ、誇り。大好きなんだわ。
どっかの集落だかを強襲したくだりの長回し丸ごと好き。投槍を受け止めて投げ返して手斧で壁登って飛び降りながらの一撃かまして、特に逆手で剣を抜くところよ。超かっけえ。


895年、北大西洋の島国の王国。幼い王子アムレートの父、大鴉王ことオーヴァンディル王が彼の弟であるフィヨルニルの謀反で殺された。
復讐を誓い命辛辛逃げ出したアムレートは、大きく成長しロシアの地で蛮族の戦士の一員になった。略奪して得た奴隷を売り飛ばす先にはフィヨルニルの農場が。かの反逆者は父から奪った王国を後にハーコン王に奪われ、アイスランドで農地を仕切っていた。アムレートは奴隷になりすまして農場に買われ、フィヨルニルに接近することに成功した。
奴隷船で知り合った呪い師のオルガの協力を得て、内側から農場を崩壊させてゆく。2人は愛し合うようになった。フィヨルニルに連れ去られた母を助け出そうとした時、アムレートは母から謀反の背景を伝えられる。曰く、謀反は母がフィヨルニルに請いて行われたもので、オーヴァンディルとアムレートの死を願ったのは他でもないこの母だった。元々アムレートは奴隷として連れ込まれた母がオーヴァンディル王に犯されて産まれた子であった。混乱しつつもフィヨルニルの長男を殺したアムレートは、オルガと共に親族のいる地へ船で逃れようとする。船上で実はオルガにアムレートと同じ一族の血が流れていることを知り、新たな王朝を始めるためにやはりフィヨルニルを除かねばならぬとアムレートは船を飛び降りた。
アムレートは再び農場に戻った。フィヨルニルの家に乗り込んだアムレートに母と次男が襲い掛かり、勢い余って彼女らを殺してしまう。その場を目撃したフィヨルニルは2人の亡骸を抱え、ヘルの門で会おうと言い残して去っていった。ヘルの門で再び相見えたアムレートとフィヨルニルは死闘の末に相討った。フィヨルニルの首を刎ねた代わりに心臓への一突きを受けたアムレートは倒れ、戦いの乙女ヴァルキリーによりヴァルハラへ誘われて行った。


逃れられない運命の物語だったかと思う。

アムレートとオーヴァンディル王が道化ヘイミルの執り仕切る儀式(パンフレットだとあれ成人の儀らしい)をやってた時、王は俺が敵の剣に倒れたらそいつの首を落とすまで剣を置くなみたいなこと言ってた。成長したアムレートが略奪した地で魔女と会った時、父の仇討ちを果たすことがアムレートの運命であると取れることを言っていた。ヘルの門で運命が果たされるのだと。
アムレートはオルガと出会ったことで、その運命から逃れようとした。憎しみにより果たそうとした運命だったけど、アムレートが憎しみより大切な愛を抱いたので。でも、結局オルガと彼女が身に宿した双子のためにやはりフィヨルニルを殺さねばならぬと、海へ飛び込んだ。動機は憎しみから使命に変わったけど、どっちにせよヘルの門で運命は果たされることになった。

フィヨルニルを殺す使命をアムレートに植え付けたのは、女の王が誕生するという別の運命。これまた魔女が言っていたこと。運命の女神ノルンが紡いだ糸というのの、なんと複雑に絡まり合っていることよ。
成人の儀にて、アムレートは父の敵に斬られた腹の血に触れて、王の樹(だっけ?命の樹?)なるものを見た。一族の血が流れる者だけが見れる、代々続く一族の家系図みたいなもんなんだと思う。オルガの首の傷に口づけしたときに同じものが見えたことで、彼女にも同じ血が流れていることを知った。魔女が言っていた女の王とは、オルガのことだった。
これをフィヨルニルが知ったら彼女や腹の子に危険が及ぶとのことで、アムレートは船から降りて引き返して行った。

親族への情けか宿敵への憎しみか、みたいなのもまた逃れられぬ運命の1つだったのかな。
アムレートは「どちらか選べると言われたが両方選ぶ」みたいなこと言ってた。アムレートの復讐リストに母も載ったけど、母と下の子は殺さないことにしたっていう意味だったのかなと思ってる。まあそもそもその前に「あんな母でも俺は女は殺さない」みたいなこと言ってたか。
でも、やむなく殺してしまった。兵を皆殺しにして踏み入れた部屋にフィヨルニルはおらず、隠れていた母からの不意打ちを受けて自衛のため心臓を一刺し。同じく隠れて見ていた子供に襲い掛かられて短刀でざくざくやられたので思わず一太刀。
フィヨルニルを殺す、すなわち宿敵への憎しみを取った瞬間に、親族への情けの道はかき消されてしまった。これもまた魔女が言っていた、選択することができる(選択せざるを得ない)運命の形態か。


同じく、誇りの物語でもあったかと思う。

オーヴァンディルは、病で死ぬのも老いた姿を晒すのも恥で俺は戦の中で敵の剣で死ぬんだみたいなこと言ってた。恥の裏返しを誇りとすれば、戦って死ぬことがこの物語の世界における誇りだと言えようか。
アムレートは敵であるフィヨルニルの剣で死んだ。ヴァルキリーにヴァルハラへ連れて行かれるようなラストシーンもあった。間違いなくアムレートは誇りに死んだ。

もう1つ。成人の儀でオーヴァンディルはアムレートに、敵の首を取るか恥辱に生きるかだと。台詞そのままじゃないけど。復讐を果たすことは、アムレートの運命であったと同時に誇りでもあったわけだ。

アムレートは誇りに生きて誇りに死んだ。そういう男の物語だったと思う。


あと1つ気になるのは涙というものについてだな。
弱さにより見せる涙はこれで最後で、次の涙は然るべき時が来たら流れる、みたいなことを成人の儀でヘイミルに言われていた。アムレートの見開いた眼が炎に照らされて潤んでるように見えるところはちょいちょいあったけど、明確に涙を流したのは死に際だった。

涙って何を意味してるんだろう。それとも涙が意味するものとかそんな話じゃなくて、もう一端の男(あるいは戦士)なんだから泣くなよみたいな話なのかな。
弱さにより見せる涙はこれで最後って言ってたけど、「涙にもいろいろ種類があるだろうが、その中でも弱さによる涙は流すな」みたいな意味ではなくて、「涙は一意に弱さの証だからそんなもん見せるな」的な意味だったんだろうか。それは強さを求められる男(戦士)ゆえのしきたりであって、死に際の涙は男(戦士)としてやり切ったことを示すものだったのかな。奴隷の中で強い男だけ買われるような、極端なこと言うと男の価値は身体的・精神的な強さだけだろみたいな雰囲気あったし。


あとはファンタジックな描写も心踊った。
ベアウルフことアムレートさんに与えられた剣で心の中の少年が騒がない野郎はいないんよ。なんか北欧神話で聞いたことある名前いっぱい出してきよったからに。具体的な内容は忘れたけど。大蛇の云々とか巨人ヨトゥンの骨でどうのとか。折れず曲がらず鈍らず。ただし夜闇の中かヘルの門の前でしか使えません。上等じゃねえか!
ヘイミルの首大好きマン。造形者万歳。舌切られて眼球抉り取られて耳切り落とされたとか大変でしたね。

生贄捧げおばちゃんが生贄ポーズで祭壇?に乗っけられてその上に腸を垂らした男が逆さ吊りになってんの狂おしいほどに好き。センスが光ってたぞアムレート。
日頃から復讐を考えて「あの野郎ああしてやりてえな」みたいな思いを巡らせてないとできなそうな所業だったわ。
じゅ

じゅ