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ノースマン 導かれし復讐者のTakeBtzのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

野蛮上等の人間賛歌!

この物語は復讐譚ではなく、人類史の避けられぬ宿命を描いた物語である。

「人類の歴史は血塗られている」という紛れもない事実に対して、この映画はその人類史の根源を描こうと挑戦している。

※この記事は、映画『ノースマン 導かれし復讐者』のネタバレ全開ですのでご注意下さい

【復讐譚ではなく人類史の宿命の物語だ】

舞台は9世紀アイスランド。
父を叔父のフィヨルニルに殺され、さらに母を奪われた挙句、国を追われた少年の王子アムレートが、叔父への復讐を誓い、成長し再び祖国へと舞い戻るという、これだけを見れば極々単純な復讐譚である。

しかしそれは物語の表層に過ぎず、単なる復讐の物語ではない。人類史の中に脈々と受け継がれる宿命に焦点を当てた壮大な叙事詩である。

その単純な物語構造に一層の深みを持たせるのは、自分を含めた過去の血筋を大木から無数に分け広がる枝のような映像を用いて描き出したところだ。

主人公アムレートは父と血を混ぜ合う契りを交わしたり、自らの子を宿した妻オルガ(アニャ・テイラー=ジョイ)とキスをすることで、このヴィジョンが脳裏に現れてくるのだが、この映像演出で描かれるのは分かりやすく"血縁"である。

アムレートは物語終盤でこの"血縁"を脅かしかねないフィヨルニルを討ち果たすのか、あるいは妻と子の幸せのために敵を討つことをやめるのか、という決断を迫られることになる。

この選択を迫られる時点で、アムレートは宿敵フィヨルニルこそ討てなかったものの、叔父の長男を既に殺していたので、フィヨルニルの心にはアムレート同様の復讐心が魂に宿っていた。

フィヨルニルの父殺しの業(カルマ)は、アムレートの心に復讐の炎を宿させ、それは長い年月を経てフィヨルニルへと再び舞い戻ったわけである。

いまや復讐される側へと自身の立場が逆転したアムレートは、復讐心がいかに人の心を動かすのか、そしてそのエネルギーの強大さを知っている。

互いに同じ復讐心を持つ者同士が、生みだした"縁"によって彼らは再び刃を交えることになる。

主人公アムレートは最後の最後で復讐者ではなく、自身の血筋の守護者として戦うのである。血塗られた半生の中で築かれた様々な他者との縁は、彼を復讐者として鍛えさせ、最後は守護者として到達させたのだ。

ではこの物語は、勇ましい英雄の物語でしょうか?

このような血を巡る闘争を後から伝え聞き、語る者は偉大な英雄譚や伝説として称え、語り継いでいくことでしょう。

しかし、本質的には違います。

この映画は暴力の中で生まれる復讐の連鎖の中に芽生える「運命(という言葉によって)」に翻弄されることで、人類史は紡がれるという必然と悲観と皮肉で描かれています。

どのような偉人や英雄の勇ましい伝説も、血を巡る衝突と闘争の過程の末の結果であり、それは現代の文明社会では通じ得ない蛮行の上に成り立つのであり「それこそが人類史の縮図だ!」と言いたそうに、戦の女神は勇ましく雄叫びを上げて、この物語は締めくくります。

しかしながら、この映画はその蛮行の連鎖という人類の哀しき宿命の中に、人間本来の動物的強さを描いています。

【野蛮であることの魅力】

さっきまでは暴力という手段で紡がれた人類史への批判的な視点でこの映画を語りましたが、その暴力描写に説得力を持たせるほどのリアリティが付与されている今作は、人間の持つ"動物的で根源的な"強さを描くことに成功しています。

この映画の最大の魅力であり、恐ろしくも同時に素晴らしいところでもあるのが、今作は暴力描写に手を抜かず、9世紀アイスランドで活動するヴァイキング達の蛮行をそのまま描こうと挑戦しています。

大自然の中、体一つで野を駆け、河を泳ぎ、戦いに明け暮れ、超自然的なドラッグの効果で、生きる喜びと人生を称え合う。

そこには文明社会の中にはいない獣のような人々が描かれ、自然と一体化しながらも知性と感情を持ち合わせた気高さをも纏う人間像が映し出されます。

彼らは自然のサイクルにこそ逆らえませんが、現在の文明社会よりも遥かに自由な存在です。

もちろんその分、全ての行いは自己責任であり、弱き者は死に絶え、排除される残酷な世界の住人ですが、まさに「力こそ全て」の世界であるからこそ、その屈強さと野蛮さに現代人が忘れ去っている人間の持つ動物としての側面を刺激され、恐ろしいほどこの映画の暴力描写を魅力的に感じさせてくれます。

「Back to Wild (野生に還れ)」という標語はよく見聞きしますが、我々のような野生を忘れ切った現代人に対して、人類史の血に塗れたその本質を込みでの"Wild"というのは、この映画に登場するヴァイキングそのもののように感じてなりません。

これこそが真の意味での「Back to Wild」なのだと気づかせてくれます。この野蛮な映画は、あなたの退屈な日常を必ずや"野蛮"な世界へと引き戻してくれるはずです。ご注意くださいませ。
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