なべ

ノースマン 導かれし復讐者のなべのレビュー・感想・評価

3.0
 エガースの解釈の余白が大きい不定形ミニマムな作風が好きなんだけど、ノースマンのポスターから伝わるイメージがウィッチやライトハウスとは違い過ぎて、あまり期待値を上げすぎないように用心しながら鑑賞した。
 思ってたより語り口がしっかりしてる。ははぁーん、リアルな時代考証に則った歴史ものと見せかけといて、次第に奇妙な世界観に連れていくんでしょ…あれ、最後までちゃんと語り切った。解釈の余地もないぞ。
 うーん、おもしろくなくはないけど、ぼくがエガース作品に求めてるのはこれじゃない。いや、部分的におどろおどろしい描写はあるよ。あるんだけど基本アプローチが素直過ぎて。何か大事なサインを見逃してるのかな。
 話はハムレットの元になった(諸説あり)デンマークの復讐王アムレート伝をベースにしてるらしい。とはいえ、その話を知らないから、どこをどうアレンジしてるのかわからない。
 王族の話といってもハムレットのような様式美はなく、全編通じてスカンジナビアの荒々しくてみすぼらしい(汚らしい)世界。
 寒いのに半裸で戦うバイキング(アレクサンダー・スカルズガルド)の漢っぷりがムンムンの復讐譚だが、バーフバリのような血沸き肉躍る痛快アクション巨編ではない。では主人公の苦悩や怒りに120%感情移入できる愛憎劇かというとそうでもないんだよな。これって後述するけど、エガースの脚本が悪いんじゃないか。
 ヴァイキングといえば、ツノの付いた兜を被り、略奪と侵略によってスカンジナビア半島を征服した海賊のイメージ。昔、小さなバイキング・ビッケというアニメがあったので、年配者が想像するヴァイキングは概ねそんな感じだろう。でもそのイメージはあとから形作られたもので、実際のヴァイキングは略奪が本業ではなく、農民や漁民からなる交易民だったらしい。らしいってくらいヴァイキングのことは知らなくて、へー、実際のヴァイキングってこんな感じなのかと新鮮な驚きはあったけど、やっぱり教養のない荒くれじゃんと思いながら観た。
 基本はかつての王族の生き残りアムレートが奴隷に化けて、宿敵フィヨルニルを討ち取りにアイスランドに向かうって話。ベン・ハーやバーフバリを知ってる身としては、ああ、リアルって残酷って思う。フィヨルニルの部落にはローマ帝国やマヒシュマティの煌びやかさはなく、羨ましさのカケラもない。これが王国⁉︎ いらんわこんなショボい王国。フィヨルニルすっかり落ちぶれてんじゃん。こんな相手を討ってもカタルシスは得られないぜ。ましてや謀反を裏で操っていたのが母親だとわかるに至っては、もう復讐の意味すらあやふやになってしまう。
 そうなの!血沸き肉踊る男の復讐劇だと思ってたら、女の復讐劇だったの。しかもその復讐劇は観客の知らないところで完結していて、豪華な暮らしでこそないが、それなりに幸せを手にしているというね。
 まあ、王妃がニコール・キッドマンな時点で、何かあるなとは思ってたけど。思ってたけど、そんな演出されると観てる方が途方に暮れるのよ。どうするのさ、男の復讐劇は⁉︎
 一応、引くに引けず、アムレートは復讐を始めるんだけど、敵の部下をコラージュみたく磔にするところがマニアックでエガースっぽかった。でもここがエガース節なんだとしたら、なんか根本的に間違ってる気がする。
 そもそも、ヴァイキングの群れで預言者に言われるまで復讐に踏み出してない時点で、アムレートはかなりぼっさりだと思うのよ。
 要所要所で預言者や魔法使いみたいなのが出てきて、ああせい、こうせいというんだけど、それをもって「導かれし復讐者」なんだとしたら、なんだか締まらない話だ。それじゃあ観客は安心して応援できないのよ。史実感を出すために、あえて突き放した共感させないつくりなのかもしれないけど、やっぱり復讐の話は観客を味方につけてなんぼでしょ。そういう意味で、ちっとも燃えない復讐劇に仕上げたエガースにどんな勝算や目論見があったのか…いや、あまり興味ないやw
 すがるオルガを振り切って、戦いに散っても、はいはい、ヴァルハラヴァルハラ。よかったね、ワルキューレ来てくれてって感じで、すんとしてた。盛り上げようとしてるのに盛り上がれないのは、ぼくのせいじゃないよ。エガースの脚本のせいだからね。
 小学生低学年の頃、北欧神話の児童書を持っていたから、ワルキューレもヴァルハラもわかる。勇敢な戦士はヴァルハラ=オーディーンの宮殿に行って、ラグナロク(最終戦争)に備えるんだぜ。あんなに戦って死んだ後にまた戦うって、アホなのか。オルガと幸せな余生を過ごす方が絶対いいに決まってるのに。アーニャかわいいのに!
 物語を牽引する主要人物より、道化師のデフォーや預言者のビョーク(顔を隠しすぎて全然気づかなかったよ)が出てくるシーンの方がエガース的見どころなのがとても残念。
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