幽斎

ヘル・レイザーの幽斎のレビュー・感想・評価

ヘル・レイザー(2022年製作の映画)
4.0
恒例のシリーズ時系列
1987年 4.4 ①Clive Barker's Hellraiser オリジナル、スプラッターの傑作
1988年 4.0 ②Hellbound: Hellraiser II メイクはリアルでもVFXは雑
1992年 3.8 ③Hellraiser III: Hell on Earth スケールダウンは否めない
1996年 3.6 ④Hellraiser IV: Bloodline ピンヘッドの数が減ってる
2000年 3.4 ⑤Hellraiser: Inferno ノワールの選択は正しいのか?
2002年 3.2 ⑥Hellraiser: Hellseeker 脚本がダメな事は間違いない
2005年 3.0 ⑦Hellraiser VII: Deader 怖くも無ければ痛くも無い
2005年 3.0 ⑧Hellraiser: Hellworld 何となくSAWっぽい
2011年 2.8 ⑨Hellraiser: Revelations スカベンジャーより酷い(笑)
2018年 3.2 ⑩Hellraiser: Judgment 日本では配信のみ
2022年 4.0 ⑪Hellraiser 本作、オリジナルのリブート

ホラーの大御所「ヘルレイザー」、日本では不思議と認知が低いのは何故だろう?。新しくプロデューサーにレビュー済「ナイト・ハウス」「アントラーズ」David S. Goyerを迎え、「ナイト・ハウス」David Bruckner監督を起用。AmazonPrimeで鑑賞。

原作はオリジナルの監督、イギリスを代表するダークファンタジー作家Clive Barker。世界幻想文学大賞を受賞した代表作「Books of blood」で有名な超一流作家。テーマは「究極の快楽」。ソレを体験出来るボックスが「ルマルシャン」。パズルを解くと異界から「或る者には悪魔」「或る者には天使」魔導士、セノバイトが現れる。ピンヘッドを筆頭に4人の魔導士はパズルを解いた者に「究極の快楽と苦痛」を未来永劫与える、おー怖わ(笑)。

原作のイメージを見事にカルチャライズしたヴィジュアルが秀逸、妖しく魅惑的なボンテージに身を包み、ホラーのみ為らず日本のアニメにも多大な影響を与えたそう(私はアニメは無知)。ホラーと言えば、どうしても映画のジャンルで下に見られがちですが、「ハロウィン」「スクリーム」「死霊のはらわた」とは違う、他ジャンルへムーブメントした点は、もっと評価されて良い。サドマゾ発祥のイギリスらしい「耽美主義」。人生をテーマに選ぶより、感覚や情緒を重んじ美を発見しようとする。何かホラーなのに高尚に成って来た。

SM的世界観にイギリスらしいパンク文化、キリスト教を隠し味にしたプロットは、後に日本で「サブカルチャー」と呼ばれ、コミックで「ベルセルク」、ゲームで「バイオハザード」等、影響は計り知れない。Stephen Kingが創り上げた「モダンホラー」=スリラーが大人気、国宝級「シャイニング」子供の頃からテレビに影響を受けて生まれた。Barkerは有名なイラストレーターから作家に転じたので、恐怖の描き方も「詳細で残酷」。「グロテスクだけど、センチメンタル」コレがヘルレイザーの魅力(ホントかね(笑)。

プロットは「邪悪な継母から父を守る娘」。ホラーとしてのエッセンスを保ち、イギリスらしい御伽噺的ファクターが、他のホラー映画との差別化に繋がる。怖さの分水嶺は人に依り様々だが、作為的な恐怖描写より、私の様に虫が大写しされた方が怖い(笑)人も居る。SM的拷問シーンも継母の許されぬ関係と絡め、摩訶不思議なロマンシング。キリスト教を否定する意味も、抑圧された世間の常識を否定する裏返し。日本の水木しげるの異世界ムーブメント、本作もしっかり追従してる。

「13日の金曜日」「エルム街の悪夢」続編のジンクスに迷走し没落し堕落した様に、本シリーズもBarkerが現場を離れて完全にダッチロール。アメリカでHBO「ヘルレイザー」ドラマ化を発表したが、COVIDで制作が暗礁に乗り上げた時、本作のプランが浮上。アメリカで2022年10月Hulu独占配信、「スクリーム」「死霊のはらわた」同様、日本で劇場公開されず、露骨なシネコンのホラー映画締め出しは、スリラー派の私も看過できない問題。ホラーこそ立体音響の恩恵に預かれるジャンルも無いと言うのに。

北米では「オリジナルを昇華させた!」メッチャ絶賛。オリジナルとの違いは「ルマルシャンの箱」魔道士に成る試練をスタートさせる箱が、本作では「リヴァイアサン」地獄の支配者から恩恵を得られるが、何人も犠牲者をセノバイトに捧げる。観る前に前9作を観返したのはホラーよりも苦痛(笑)。配信前提で創られた故、レーティングを意識して血飛沫描写より(でもR指定)、謎解きスリラーに転換した点をドウ評価するか。私は賛成派だがシリーズのファンなら純粋な続編に見えるかも。難点はヒロインを演じたOdessa A'zionに全く魅力を感じない事、キリストを否定するのでキャストにインテリジェンスを感じず、監督らしい美造形のルマルシャンが実に勿体ない。

私はEXクリスチャンですが英語読み「リヴァイアサン」、海洋ホラーの迷作を思い浮かべる方は年齢層高めだがロシア語読み「Leviathan」レヴィアタンは、旧約聖書に登場する海のモンスター、聖書に「地上に彼と並ぶ力は無く、何者も恐れぬよう作られた」記されてる。ヴィジュアル的には鯨と鰐を掛け合わせたモノ、超自然的、超越論的、と言う解釈で文学の世界では絶対君主や国家権力の引用に使われる。本作では絶対的なパワー、と解釈する方が分かり易い。関係ないけどリヴァイアサン、発音がカッコイイよね(笑)。

「グロいけど後味の良いホラー」総論かな。快楽の為に生贄に捧げて与えられたギフトが超苦痛で、もう一度生贄を捧げて苦痛を外して欲しいと言う流れは京都人の私風に言えば「いとをかし」。テンポ良し、グロ良し、演出良しの三拍子揃って旧作ファンも満足では無かろうか。ホラーにLGBTQはイラン(怒)レビューも有るが、イギリス文学は遥か昔からホモセクシュアルや非白人を描いたので、お門違いも甚だしい。ヘルレイザーが導くのは拘束された世界観の「道徳」。地獄と感じるか至福と感じるか、貴方次第なのだ。

女性版ピンヘッドこそ時代の流れ、究極の快楽の世界で貴方は天使にも悪魔にも成れる。
幽斎

幽斎