カツマ

ヤーラのカツマのレビュー・感想・評価

ヤーラ(2021年製作の映画)
3.8
雪中に消えた足跡。事件は暗中を漂い、その痕跡はまるで水中を泳ぐ透明人間のよう。犯人はどこかにいる。しかし、その証拠も、足取りも、長い年月の底へと埋没していった。それを辿るのはある女性検事の執念と科学捜査の賜物。実話としての重みを宿し、この物語は真実を解きほぐしていくための鍵を見つけるまでの旅だった。

テレビ番組でも特集されたことのあるイタリアの誘拐殺人事件『ヤーラ殺人事件』を、『輝ける青春』や『13才の夏に僕は生まれた』などを撮ったマルコ・トゥリオ・ジョルダーナをコンダクターとして映像化。完全に迷宮入りした事件がDNA鑑定をきっかけに大逆転の犯人逮捕となったセンセーショナルな事件だけに、映画化されるのは時間の問題だっただろう。Netflix製作、実話ベースの重苦しさが真実の惨だらしさを助長する。闇の中で小さな鍵を探すように、その事件の顛末は混迷を極めた。

〜あらすじ〜

イタリアのベルガモでのある夜のこと。13歳の少女ヤーラは家からたったの700mしかない道のどこかで姿を消した。家族間の仲は良く、ヤーラ自身や家族にも特に恨みを買うような案件もない。そういった事実から推測されるに、ヤーラは何者かに誘拐されたという説が有力となっていった。事件を担当する検事のレティシアは、方々からの情報をもとに事件を多角的に分析するも犯人の痕跡は無し。誤認逮捕まで引き起こしながら、事件は暗礁に乗り上げてしまう。
それから3ヶ月後、ヤーラは人里離れた草むらの中で遺体となって発見された。悲しみに暮れる家族、最悪の結果によるレティシアへのメディアの圧力などが重なりながら、犯人の消息は未だに知れぬまま。時間だけが過ぎていった。
だが、遺体に犯人の血液が付着していたことから、レティシアは科学捜査が突破口になることに気付いて・・。

〜見どころと感想〜

犯人の目星は全く付かず、本来なら迷宮入りになるはずのところを、DNA鑑定によるなりふり構わぬ戦術で突破した、正にアンビリーバボーで放送するに相応しい事件である。解決までは長い年月を要しているが、そこに至るまでの検事や彼女をサポートした人々、被害者遺族らの執念がこの作品には焼き付けられている。実話ベースだが、ドキュメンタリータッチではないため、エンタメサスペンスとしても出色の出来。少女ヤーラが殺害されるシーンは冒頭に訪れるため、あとはどのようにこの事件が法廷まで持ち込まれるのか、が焦点となっている。犯人はどこにいて、検事レティシアはどのように立ち向かうのか?大胆不敵な事件のクライマックスを息を呑むように見守ってほしいと思う。

主演を務めたのは、最近ではイタリア映画祭でも上映されていた『イタリアの父』に出演のイザベラ・ラゴネーゼ。批判に晒されながらも、どんなことをしてでも事件を解決する、というなりふり構わぬ熱き検事を見事に演じ抜いている。他にもガロ軍曹を『ルチアの恩寵』に出演しているトマス・トラバッキが、大佐役をアレッシオ・ボーニが、それぞれ演じている。全体的に無骨なキャストだが、皆演技のレベルが高いので、画面への没入度は高く感じることができるだろう。

主人公の検事の焦燥が伝わってくるかのように、犯人の正体は完全に煙に撒かれ、本来ならば解決は絶望的な事件のはず。DNA鑑定という手段が浮上したとしても、犯人の絞り込みは非常に困難で、そんな状況をどのように打破していったのかが丁寧に紐解かれている。被害者家族への慈しみを忘れない作りにも好感が持て、この凄惨な事件の現状を真摯に伝えたい、という製作者側の意図が感じられる作品でした。

〜あとがき〜

実話ベースということで非常に重たい作品。事件そのものが胸糞なので、劇中を通してキリキリとした痛みを宿らせています。ドラマ映画としては良くできていて、不可のない作り。イタリア映画としての灰汁は薄いので、実話ベースとはいえサスペンススリラーの要素も色濃く残してくれています。

Netflix製作の映画としては少し地味かもしれませんが、事件のことを知るという意味での役割は十分でしょう。遺されたヤーラの家族にこれ以上の哀しみが降り積もらないことを祈りつつ、静かなるエンドロールは雪のように降り積もっていきました。
カツマ

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