KnightsofOdessa

アンチクレンチング・フィストのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

3.5
[北オセチア、嫌いなのは土地ではなく環境] 70点

2021年カンヌ映画祭"ある視点"部門作品賞受賞作品。監督キラ・コヴァレンコ(Kira Kovalenko)はカンテミール・バラゴフやアレクサンドル・ゾロトキンなどと同じくアレクサンドル・ソクーロフの門下生であり、特にバラゴフは彼女の初長編『Sofichka』に脚本家として参加するなど近い関係にあるようだ。本作品はバラゴフの出身国でもあり、彼の初長編『Closeness』の舞台でもあったカバルダ・バルカル共和国の隣りにある北オセチア共和国が舞台となる。切り立った崖に囲まれた盆地のような場所にある街に暮らす少女アダは、過保護を超えて抑圧的な父親ザウルとの生活に嫌気が差している。そして、先に家を脱出して近郊の都市で働いている兄アキムに助けを求めるべく、彼の帰りを心待ちにしている。この"嫌気が差している"というのがポイントで、様々な理由から彼女自身が、どうやってもこの土地を離れられないことを知っているかのようでもあり、

彼女は北オセチアで起こったベスラン学校占拠事件における被害者であり、それが遠因で亡くなったらしい母親と同じく、身体に大きな傷を受けている。それは彼女をこの土地に繋ぎ止める呪いのようでもあり、父親から感情的に離れられない原因の一つでもあるのだが、この情報が"拳を開く"ように徐々に紐解かれていくのが興味深い。特に前半は、香水を気に入らないから捨てさせたり、パスポートを隠したり、玄関を内側から鍵をかけたりする父親や、帰宅するなり第二の父親となってしまうアキム、全く空気の読めない弟ダッコ、そして嫌がっているのに付きまとい続けるタミクなど、『Never Rarely...』や『Closeness』や『Summer Blur』などの作品の嫌な部分を全部詰め合わせたような地獄が展開されるので、Too Muchな感じもしてしまうし、描写もありきたりで食傷気味になっていた。それでも、父親が倒れて権威を失った後で、彼女と土地の関連性を指摘されると、彼女が嫌がっていたのは環境であって土地でないことが示され、ブーメランのように元の場所に戻っていく様の丁寧な証明にはなっていたように思う。
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