バテラ

とら男のバテラのレビュー・感想・評価

とら男(2021年製作の映画)
4.0
1992年に金沢で起きた水泳コーチ殺人事件。
残念ながら未解決のまま、2007年に時効が成立してしまった事件が題材なのだが、
この映画が異色なのは、主演にその事件を担当していた元刑事、西村虎男を据えた点だ。

まずはこの西村虎男に言及しない訳にはいかない。演技が上手いとか下手とかではなく、佇まいや所作が素晴らしいのだ。そして何より、その目である。けして弛まない凄みのある目。陳腐な言葉になるが、本物の迫力がある。西村虎男という人が完全に画面を支配している。

さて物語は、メタセコイアについて調べようと金沢に来ていた、東京の女子大学生が、おでん屋で虎男に出会い、事件を知って興味を持ち2人で再捜査に乗り出す…というものだ。

リアルとフィクションがない混ぜになった不思議なタッチ。ドキュメンタリー調の抑制の効いた話運びと、美しい画作りも良い。しかし、重要な当時の事件の捜査状況が分かりにくいのと、虎男が出ていないシーンが少し弱く感じてしまうのが残念だ。
もっとも西村虎男の存在感を考慮すると、ここは致し方ない。

そしてこの映画の白眉は、終盤のあるシーンの虎男の表情。あの顔は忘れられないだろう。

解決出来たはずの事件が、解決出来なかった。時効は成立している。しかし、終わりに出来ないこともある。この映画には、1人の刑事の忘れることの出来ない無念が、執念となって染み付いている。

得難い映画体験になるはずで、一見の価値がある作品だ。
バテラ

バテラ