ルサチマ

ミューズは溺れないのルサチマのレビュー・感想・評価

ミューズは溺れない(2021年製作の映画)
3.0
絵画でも彫刻でもなんでもいいけど、ものづくりに取り組む若者を描いた物語の苦悩の描き方がどれも既存の枠組みに当てはまっていて、そうした通俗的な若者の生態を疑ってないことがどうしても引っかかる。恋の仕方に悩むのも将来に悩むのも、家族に悩むのも当然なんだけど、それらに現代的な問題も絡めて物語るのは、小手先の現実との向き合い方でしかないし、海辺と取り壊される部屋の並行モンタージュやノイズを用いた音響の付け方も小手先の映画表現でしかないと感じる。
ティーンエイジャーの問題をドラマにするなら、そこから大人たちの作り上げた社会構造そのものを撃たなきゃいけないはずなのに、主人公の親も、美術部の顧問も子供に対して寄り添う姿勢をみせる。彼らのような理解ある大人たちの中で生きていく決断を主人公がするだけではレズビアンの西原が抱えていた問題は掘り下げられることを結局回避されてしまい、青春群像劇のドラマとしてまとまりよく収まる。もちろんこの映画では主人公のサクがナラティブとして機能してはいるはずだが、終いに取り壊された家をサクが見つめるために西原が隣で手を繋いでやるというのは、どうも都合が良すぎるように思える。
自主で撮るってことは、制度的なドラマに収斂されることなく、対象と真っ向勝負できる環境に身を置いてるわけだから、もっとまとまり悪くてもいいから紋切り型の商業的な倫理や道徳のコードも取っ払って踏み込んで欲しい。
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