骨折り損

シラノの骨折り損のレビュー・感想・評価

シラノ(2021年製作の映画)
3.1
クライマックスで自分が完全に冷めていることに気付かされる体験は久しぶりだ。

うーん、愛する人の愛する人に代わって小人症の主人公が手紙を書くって題材はめちゃめちゃ興味あったんだけどなぁ。

残念ながら2時間本編観ても、予告で見た情報からほぼ何一つ新しい情報がなかった。情報量が少ない。それは、いい意味で捉えられず、ただ世界観の描写不足が否めない。世界観の提示に加えて、展開や人物の深掘りの乏しさも、歌う時間が幅を取っているからだと思うが、その歌の内容自体も物語を動かせていない。

愛を歌うシーンも、一目惚れしたのは分かるが、永遠容姿を褒めたり、好きだ好きだ言うだけで、「こいつがいいんだ!」っていうところに納得感が感じられなかった。ここでお姫様は男に出会って恋に落ちます、を歌に乗せて説明されているように感じた。

恋愛ミュージカルに一目惚れってよくあると思うが、今作を見て意外と一目惚れってミュージカルと相性悪いんじゃないか?とすら思った。お互いの容姿にグッときただけの状態で、お互いの気持ちを情熱的に歌い合うって、腑に落ちるように見せるのにかなり二人のビジュアルや出会い方を考えないと難しいなと。

『ウエストサイドストーリー』でも感じたが、一目惚れの瞬間の歌うテンションが高過ぎるのかもしれない。

まぁクリスチャンとロクサーヌの恋愛も言いたいこと山ほどあるが、そんなことよりシラノ可哀想すぎ。見てられない。割と時代背景が昔の設定で、今以上に周囲と見た目が違ったりすると自尊心低いのは分かるが、ロクサーヌに舐められてるのが見てて単純に不快に感じた。おいシラノ、綺麗なのは分かるけどこんなやつもう放っとけよと心の中で連呼した。

自分のことばっかりのロクサーヌがほんま腹立つ映画だった。自分が散々人を振り回しておいて、挙句上手くいかないと悲劇のヒロインみたいな顔して、クリスチャンとの結婚式の直後にクリスチャンが戦地に向かうとなれば、「私に未亡人になれと!?」って。いや、クリスチャンの心配しろよまず。まだ死んでねぇし。

ロクサーヌは嫌いだったが、シラノには最後まで幸せになって欲しかった。ラストで死にゆくシラノに未亡人になったロクサーヌが「シラノ、ずっとあなただけが好きだった」って綺麗な声で歌い上げるシーン、何あれ? クッソ腹立ったんだけど。
全然美しくなかった。

こんなにボロクソ書いたが、美術や衣装は見応えがあって好きだった。目にはおいしい映画だったが、展開がとにかくご都合主義な映画だった。正直鑑賞中、活き活きと演じるピーター・ディンクレイジの姿がとても輝いていて、素晴らしかった分、映画の微妙さに「ああー、これは彼の代表作になるはずだったんだよなぁ」と複雑な気持ちになった。

いや、彼はこの映画を絶対に超える代表作をこれからも作ってくれる筈だ。彼の次回作が楽しみだ。
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