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沈黙の情景のニューランドのレビュー・感想・評価

沈黙の情景(2021年製作の映画)
3.4
✔『沈黙の情景』(3.4p)及び『カマグロガ』(3.5p)▶️▶️

 第一回目の時に、巨人R·クレイマー登場で、当時の30前にして日本人最多映画踏破者の知人(11PMにも出たくらいの人だが今、どうしてるのだろう)が、珍しく騒ぎその興奮を伝えてくれた、ので意識はし始めたヤマガタだが、こんな時期に連続休暇などまず無理で、翌年の東京お披露目で数本観てお茶を濁すのが多かったが、昨年はオンライン開催で銀幕上映では東京がメイン会場となったらしい今回。
 『沈黙~』。悪くはなく、何とも半端、かつ何でもあり、の、定まらないが魅力は感じさせる作ではある。一番半端なのはカメラアイというのか、何を見つめようとしているのか、はっきりしない事である。水流の様々な動き·状態を接写で、くどい位に重ねてゆく冒頭から、汎ゆるアングル(俯瞰·仰角·縦·CU·角度変え)、固定めカットから前進移動カット組合せ、半壊の外形の往時偲ばれから薄暗い構築物内部に入っての闇と影の世界、小生物のはびこり汚れ表面·自然の張り出した枝葉ごしの施設単位図、自然の海面の波やそれが丸めたり切り出したりしてる石や崖の詰めたあり方、どこかに絞り何かを醸し出す前にお調子者よろしく、次の関心へ向かう。そのせいで少なくとも20余年はやってた、従業員ストもあって、サービスや集客が衰えていったらしい、このメキシコ近くの島なのか、海に面し、様々な建屋·施設·動物·遊興サービスで華やかだったらしい、かなり巨大な廃墟と化した場·マリンパークを、不思議なかたちで半ば蘇らせたような錯覚を作り上げる事に成功はしてる。男女の掛け合いナレーションは、幻想的に、ここの次代の住民を狙う伝説の巨大生物の事や、徘徊する亡霊ら、を絡め·ありし日を詩的に語り続けてくが、節度は欠き、定着してく何かの感覚は、例え幻でも、見えては来ない。変らぬ盛況を謳う、当時の呼び込みテープの被せは、いささかしつこく煩くさえある。
 この時間は昼間一本見て、空いた時間で、それ程決定的関心を持てぬ数本のその一回だけの催しで迷ったが、’90年代のカイエ·ジャポンの流れを汲む人たちのサイトかな、たまたま観たら、複数の人が執筆してたので、ノーマークから観る気になった。ニュー·アメリカン·シネマの全盛には立ち合ってないが、『2001年~』リヴァイバルではそこにそのウェーブの取り入れは分かったし、’80年代のD·ジャーマン·ブームも本物とは認められなかった、くらいの世代だが、本作の腰の据え方は、先人に比べかなり弱い、と思う。そこら辺、視覚以外の上位を期待しなければ、それなりだが。
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 これと対照的な、かなり古風に、着実に、労働·政治環境·家族共同体とその歴史を、描き積み上げた『カマ~』の方が、かなりピタッとは来る。四季ごとに捉えられ·移ろいも伝わりくる農家(ら)、タイガーナッツ生産(+販売、水分補給や湿気に気を配り、堆肥与えても土地も痩せるので、隔年毎に。玉葱·芋·トマトらと交互に)をしてるスペイン地方都市部で周辺が珍しい肥沃地(元々アラブ人が絹の桑や·オリーブ油等で肥し、根も張り水害にも強く)での、フランス等に比べると助成もなく、グローバル化や大型スーパー買上げ一本化て競りもなく、売値と経費がとんとん·儲け分無くなって来てる現状。それでも、「土と生命の一体化の美しさ」から農業を諦めない、老父と娘·その子=孫の3人と家族を中心とした、雨に左右される収穫期、遅れると周囲20名ら協力で一斉に、の土地の高齢中心農家らの人々の世界が一年に亘り描かれてく。更に、巨大モール誘致の為に、地方行政超えて国の農地破壊·道路建設決定と強制執行。広い苦悩·集会デモ意気と、疲れ引退の心持ち。
 冬、耕し畝を作った後、タネ豆を深めにバラ蒔き、芽が出きった春、ビニールシートを一面にかけ、夏それを剥いで水路から水入れ半ば水没させ、秋、出て伸びて枯れた葉々を焼払い·土をふるいにかけ豆を集め、大々的に運び大倉庫で干す。部分部分を下階に落とし選別を。一年を通じ、鍬·肥料·水入れ、区切タイミング計り、で身体も神経も消耗。合間の(共同体皆での)食事らを挟み、実に映画作りも丹念·丁寧で、古来民謡謳い上げも被り、不屈の魂とその危機·終焉が描かれるに至る。まるで白土の『カムイ伝』(第一部)の手触りだ。
 スタイル迄は至ってなくも、限りなく美しく味わいあるフィルムスタンダード画面がベースで、陽光·逆行·動き細部·広い自然·その美しさ·顔と語り、をくまなくバランスを優先させず、押えてく。大L(その角度·高さ·人の位置)、フォロー長め貼り付き、動きとズームポイント·顔の年輪CUら、極めどころも確か。孫の学校発表ビデオ撮り画面の傾きや揺れも、同等重みで挟まる。新道路施工前でも、周り·背後を走る車と騒音がかましい。
 苗字でなく、屋号で呼び合うは、うちの田舎と同じだ。うちは、カマグロガならぬカマヤだ。
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