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イニシェリン島の精霊のSQURのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.0
1月からいきなり今年ベスト1でもおかしくないくらい最高の、最悪映画体験。

鬱映画といえば鬱映画なんだけど、そういうキャッチーなフレーズで消化できる代物ではない。
よく"救いがない話"と言われるが、この話は逃げる余地がある分だけよりしんどい。
あまり言葉で説明したくないので、とりあえず映画館で観てください。


ちょっと時間を置いてから追記。
私はこの映画の絶交する方にもされる方にも身に覚えがあって、その苦々しい思い出と混ざり合いながら、観るにつれてどんどん気力を奪われてしまった。
もしかすると、どちら側か"だけ"の人であればまた違った感想になるのかもしれない。
この映画の他の人の感想を眺めていると、感想の多彩さに驚かされる。退屈だったとか笑えたとか泣けたとか。本当に同じ映画を見ているのかつい疑ってしまいたくなるほどだ。慣用的表現で言えば万華鏡のようにいろいろな姿に映る映画、ということなんだろう。
難解、と言ってる人もよく見かけ、これが私には本当に、煽りとかではなくよく分からない。おっさんが喧嘩するだけの話な気がするけれど、どこに難解さを見つけたのだろう? 私の気づいてない奥深さがあるのだろうと思うと悔しい。

私がこの映画で特に「最悪だな」と思ったのは、この映画において田舎は逃れようのないものではないからだ。現に、容易に逃げ切れてしまう人も描かれる。
逃げようとすれば逃げられる。でも本当には出ていくことができない(限界集落から出られない老人や、不景気で保守的で未来のない日本から出ることのできない私のように)。「自由」はよく金科玉条のようにありがたがれ、「自由」が正義のように言われる。しかし、「自由」の書き割りの裏は、この通りだ。お前もこの映画と同じでどこにも行くことはできないのだよ、と。そう言われているような気分になった。

余談だけど、この映画を戦争のメタファーだと喝破してみせてドヤ顔するレビューも結構見るのだけど、その一面的な読み方で一喜一憂するのは映画の厚みや深みを損ねているような気がする。まあ誰がどんな見方しててもそんなの人の勝手だろうけどね。
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