ひろ

イニシェリン島の精霊のひろのネタバレレビュー・内容・結末

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

「一番好き」とは絶対に言えないけど、「一生記憶に残る」と確信を持って言える映画だった。

退屈しながら死を待つ「島」はさながら処刑台。「100年前の孤島だから」という事を念頭におきつつも、現代日本においても「島」の様な生き方をしている人間は多く、個人的にそんな人たちには退屈と嫌悪を抱いていた。(もちろん言葉にはしないし、自分も「島」側の人間なのかもという懸念もあるが)

この作品では「退屈」=「島」と「教養」=「本や音楽」を対比的に置いていて、その対に配置されたキャラ二人による愛憎劇が描かれている。
退屈を憎んで、切り離そうとしても、その分痛みが生じる。退屈は居心地がいいし、出来ることならずっと共にいたい。けど、そのぬるま湯に浸ったまま死んでしまいたくない。

主人公はそんな葛藤の意味もわからずに振り回され続ける。彼は退屈の外に出ようとすらせずに安易な暇つぶしのための親友に固執してしまう。それは教養や相手の気持ちを考える能力が欠如してるから。だからこそ自分の怒りをぶつける事しか出来ず、あの結末を招いてしまった。

舞台、アイテム、人物を効果的に配置しているような劇作家ならではの世界の切り取り方が凄まじい。

会話劇も素晴らしく、人間味が滲み出るセリフは面白い。しかも少ないセリフだけで人物像が把握できる。
これは人間解像度の高さとキャラとしての誇張が成せる技だと感じた。
話している人物の感情や背景が伝わるから会話から目が離せない。

この会話も劇作家としてのスキルで、今作はマーティンマクドナー監督の強みが抜群に活きた作品だった。
どうやったらここまで一つの作品を考え抜れるようになるのか、本当に尊敬。
ひろ

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